儚くも優しい恋の物語

□そして・・・
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静かな港町。エースは1人小じんまりとした家の前に立っていた。
戸を叩くと物静かそうな女性が遠慮がちに顔を覗かせた。

「どちら様でしょうか…?」
「アルファに頼まれて来た。」
「アルファ……さんの…?」
「これ、渡してくれって。」

女性は目を見開き、身体を震わせながら、エースの手にある箱を受け取った。

厳重に閉じられたそれを女性は震える手で開いた。中には見るからにみすぼらしい木の根のように見えるものが入っていた。

「ありがとう…ありがとうございます……!!」

女性は箱を大事そうに抱え、泣き崩れた。

「これで、娘の治療が出来ます……!」



エースは海を眺めていた。

「終わったのかい?」
「あいつ……どこまでもお人好しだな。難病の子供の為に貴重な薬を手に入れてやるなんて。」
「アルファらしいだろい。」
「そうだな。あいつは最期の最期まで人の為に生きた。」

エースは立ち上がり、吹き付ける風に帽子をおさえた。
その風はまるで、ありがとう、と言っているようで。
「気付いたんだけどよ。」

エースは空を見上げた。

「ありがとうって言葉、嬉しいな。アルファはちょっとした事でもすぐにありがとうって言ってくれた。」
「アルファは人に感謝される喜びを知ってた。だから自分も人に感謝してたんだよい。」
「もうアルファの笑顔も声も何も見れないし聞けないんだな……。」
「アルファは俺達の中にいるよい。」
「そうだな。……行こうぜ、マルコ!」

エースはふと笑って、走りだした。


アルファとの時間はわずかだった。だが、アルファはそれ以上のものをくれた。
エースの中に悲しみはあったけれど、それ以上にアルファの残した思い出は大きかった。

アルファは命の重み、人生の意味、感謝する心、人を愛することを教えてくれた。それはエースの心に深く刻まれ、アルファは自分の願いを叶えた。


<死もまた人生の一部。絶望の中で消えていくか、日々に希望を持って最良の日を暮らしていくかと言われたら、私は後者を選ぶ。皆が笑顔の私を思い出してくれるように、そして私が笑って最期の時を迎えられるように。>


それはまるで幻のような、

儚くも優しい恋の物語




だけど、確かにそれは恋だった。










〜あとがき〜
これにて完結です。
此処まで読んで頂きありがとうございました。
ヒロインが一生懸命に生きて、最後の最後でエースと想いを通じあって幸せを噛み締める儚さとヒロインとエースが出会って2人の心の変化を描くのを目指して書いてきました。
あまり私の中で死ネタってイメージ良くないんですが、何とか穏やかな締めくくり(?)が出来たかな、って思います。

読んで頂き、ありがとうございました

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