風の道

□決意のその奥に
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セイラの2番隊隊長就任を祝って始まった宴だったが、しばらくすれば当初の目的もあやふやになり、ただの宴と化していた。夜が更けるにつれて、そのまま寝入ってしまう隊員も出てきたがここは夏島の領域だったので、そのまま放っておいても何の問題もなかった。

宴もそこそこに セイラは、賑わいの中を抜け出て、一人静かに欄干に腰をかけ、そこから暗闇に包まれた海を眺めていた。

「宴の主役がこんなところで何してんだ。」

しばらくすると、サッチが酒瓶を1本丸々持って現れた。セイラがそちらを振り返る前に、サッチは軽く欄干に上り、セイラの隣に座った。

「なんで突然隊長引き受ける気になったんだ。」

さっき皆の前で言ったでしょ、というと、サッチはセイラの心を見透かしたように笑みを浮かべながらセイラを見てきて、それだけじゃないだろ、と先を促してきた。セイラもサッチ相手にごまかせるとも思っていなかったし、いずれ話すことになると思っていたから、それが今だろうと先だろうとどちらでも変わらないから、今話しておこうと、持っていたグラスを横に置いた。

「マルコに子供扱いされるのが嫌になったの。」

セイラは心の内に秘めていたものを吐き出した。

小さいときからここにいるセイラはマルコにとって妹であって、いつまでも子供だった。それでもいいと思っていた時期もあったが、先日の嵐のときに、マルコが身を挺して海に飛び込んできのは自分を子供だと思っている証拠だと感じた。あれが、例えばサッチならマルコは助けにいかないだろう。助けにきたのは、マルコがセイラをまだ1人前の大人だとか、信頼できる同等の立場の仲間だと認識していないから。それが悔しくてたまらなかった。誰よりも認めてほしい相手に子供扱いされるのがたまらなく心を痛めた。
これからもずっとマルコの下で副隊長をやっていたら、現状は変えられない。
私は一人でもやっていけるのだと認めてもらいたかった。


「そんな理由で隊長引き受けるなんて、最低だよね…。」
「……いいんじゃねぇの?理由がなんであれ、2番隊に隊長がいれば、皆助かるんだし。」


下をうつむくセイラにかけられた言葉は意外にも前向きなもので、セイラは眉をひそめた。それの意図を理解してか、サッチは続けた。


「俺が心配してたのは、マルコを諦めるんじゃねぇかってことだ。それって傷心の心をごまかすために、2番隊隊長を引き受けるってことだろ?それは2番隊の奴らに失礼だろ?諦めたわけじゃなくて、前進するための手段だったんなら、隊長の責務もまっとうできるだろうよ。」

さらり、と言ってのけるサッチにセイラの心のわだかまりがほぐれた気がした。サッチはにっと笑ってセイラの頭をぐしゃぐしゃに撫でまわした。
それで、セイラの表情に笑みが戻るのなら、サッチはそれで良かった。



マルコがセイラを助けたのは、セイラを認めてないとか、子供だとか、そういう理由ではない、とサッチは思っていた。
それなら、1番隊の副隊長を決めたとき、マルコがわざわざ他の隊にいたセイラを引き抜いたりはしなかったはずだ。マルコが、セイラの気持ちに気付いていないわけがない。だけど、好かれているとわかっていてもマルコはプライベートなことを仕事に持ち込むタイプではないし、自分の右腕にする才能や実力を持っていると見込んでセイラを1番隊の副隊長にほしい、と言ったのだ。それなのに、セイラの危機にマルコは身を挺したということは、理性より感情が先走った故だったのだと思う。
その意味にセイラは気付いていないが、とりあえず今はそれでいいか、と笑うセイラにサッチはただ微笑み返すだけにした。

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