風の道

□疑惑と謎
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人の噂も75日とはよく言うが、ここは男ばかりの空間で、海賊というのは一つのことに長く留まることを知らないせいもあってか、セイラのマルコへの告白も10日も経たずにまるでなかったことかのようになっていた。無論、最初はこそこそと、様子を伺う輩もいたにはいたが、マルコがうるさい、と怒鳴ったせいもあってか、それ以来、最早禁句のような扱いになったせいもあったのかもしれない。
そうとなれば、セイラが襲われたことも今ではなかったかのように、襲った男は以前と同じように仲間と会話ができるようになっていた。もちろんセイラに会うと相変わらず、ぎくしゃくしていたが、それは仕方のないことだと誰もがわかっていたから、何も言わなかった。


「結局、マルコ隊長に返事もらわなかったの!?」

3時のおやつをナースたちの部屋で食べていると、ナースの一人が声をあげて驚いた。
あの一件が解決してから、セイラは自室に戻ったし、いろいろ仕事も溜まっていたので、ナースたちとこうやってのんびりするのも、あれ以来初めてだった。女というのは、こういう話が大好きで、セイラがいないところでも、噂はしていた。それが、張本人がきたものだから、話は更にヒートアップしたのだが、予想外の本人からの発言にナースは言葉を失った。

「返事はいいって言ったの。マルコは私のこと、妹としてしか見てないんだし、わかりきった結果聞くのも嫌だからって…。」

セイラはサッチ特製のケーキを頬張りながら、後悔した様子もなく、あっさりと言った。

「でも、マルコ隊長もセイラのこと好きかもしれないでしょ!?」
「ないない。」

これまた、すっぱり言い切るセイラにナースは渋い顔をしたが、突然、はっ、と何かを感じてか、顔をひきつらせた。

「まさか、マルコ隊長……。」








「休憩は終わりよ!?」
「マリアさん!」

わいわい、と話が盛り上がっている間に休憩時間はあっという間に過ぎていて、ナース長のマリアが休憩中のナースを呼びにきて、ナースたちは慌てて、皿やコップを片付けて仕事に向かった。

「まったく。セイラ、変なこと言われたんじゃない?気にしちゃだめよ?」

最近、マルコとセイラの話題をしょっちゅうしていたのを知ってか、マリアは呆れたようにセイラを気遣ったが、セイラは難しい顔をして、首をかしげた。

「マルコって不能なの?」
「え?」









夕飯は普段通り、にぎやかな食堂でご飯を食べていたセイラだったが、日中のナースたちの話の内容が気になって、あまり食事は進んでいなかった。

「どうした、腹でも痛いのか?」

さっきまで、べらべら喋っていたサッチが、セイラの皿に盛られた食事が減っていないことに気付いて、不意に尋ねた。

「マルコって不能なの?」
「はぁ?」

マリアと同じような反応にセイラはますます、険しい顔になった。
あの後、結局マリアは他のナースに呼ばれて、また後でね、と急いで出て行ってしまったので、何も聞けなかった。
それから、ずっと、不思議だった。途中からセイラをほっぽって話に夢中になるナース達の口から出てくる言葉の意味がほとんど理解できなくて、終始セイラはぽかん、としていたが、そのことに気付かず、ナースたちは時折、残念そうな表情をしたり、苦々しい表情をしていた。マルコが不能だとか、そういうことを言っていて、それがどうして自分とのことと関係あるのか謎だったし、そもそもマルコが不能だと言う意味が分からなかった。
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