風の道

□その感情に名前を 〜heroin side〜
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とりあえず、今夕飯を食べないと、後でお腹が空くことは目に見えていたので、マルコは適当に夕飯を胃におさめることにした。

「俺、そんな風に思われてたのか……。」

がっくり、と音が聞こえそうなくらい、肩を落とすサッチだったが、マルコは肯定も否定もせず、放っておくことにした。

食事を終えたマルコはナースのところに行こうかと思ったが、時間も時間なので、自室に戻ることにしたのだが、自分の部屋に戻る途中でセイラの部屋から明かりが漏れていたので、少し悩んでから、戸を叩いた。

少しふれくされたような、弱めな返事が返ってきたので、マルコが中に入ると、セイラはお風呂あがりなのか、タオルを頭にかけて、キャミソールに短パンとラフな格好をしていた。

「風呂あがりだったかよい。」
「あ〜、頭冷やそうと思って…。」

セイラはあからさまに視線をはずして、タオルで髪を拭き始めた。

「サッチにはあとで謝りにいくから…。マルコも、ごめん。」

落ち込んでいる、というより、恥ずかしいことを言っていたことに反省しているような口調で、マルコも大して気にしていた訳でもないので、セイラが落ち込んでいないなら、それでよかった。

「そういう言葉も、ちゃんと知っていったら、少しは大人になれるのかな…?」

ぽつりとそう漏らしたセイラにマルコは、どうかねい、とベッドに腰を下ろした。

「ただ、そういうことを知ってるからって大人、とは限らねぇんじゃねぇかい。」
「じゃあ、どうやったら大人になれるの?」
「難しい質問だねい。」

世の中には言葉だけが多用されて、その定義が曖昧なものなどたくさんある。年齢であったり、精神であったり、大人というものもその定義は曖昧だ。

「大人になれたら、マルコは私を大人として扱ってくれる?」

マルコの隣に腰を下ろしたセイラにマルコはふっ、とため息をもらした。

「なんで、俺なんか好きなんだい?もっと若けぇ奴もいるだろい。」
「………気付いたときにはマルコが好きだった。」

セイラは一瞬訪れた沈黙のあと、息を吐き出すと同時に声を吐き出した。

15の時、マルコに対して、他の人と違う感情があると思った。それが、恋なのかセイラ自身、確証がなかった。マルコは自分と一回り以上離れていて、もしかしたら、それは大人への憧れから来るものかもしれない、とも思った。
だから、試すことにした。マルコへ抱くこの感情の答えを知るために。無作為に皆に抱き着いてその時ドキドキするのは誰か、キスをするなら誰がいいか、セックスをするなら誰がいいか、考えてみたり。
大好きな家族が島で見知らぬ女と歩いているのを見たとき、何を思うか。

「全部マルコだった。嫉妬するのもマルコだけだった。自分で考えられるだけのことをした。でも、ドキドキしながらも安心したり、一緒にいたいと思えたのはマルコだけだった。」

その感情は良くないものだと思った。家族だし、マルコは自分のことを妹としてしか見てくれないから。
だから、マルコから離れればその気持ちも自然となくなるんじゃないか、と思い、イゾウの隊に移動してマルコから距離をとることにしたが、離れて更に思い知った。マルコじゃなきゃダメなのだ、と。マルコとの会話が減っただけで、マルコと一緒にいる時間が減っただけで、寂しい、と感じ、心臓を掴まれたように痛んだこともあった。


「それで吹っ切れたの。私はマルコが好きなんだって。その想いを無理やり抑え込むのは止めようって。」

そう言ったセイラの目は迷いのないまっすぐしたもので、マルコはふと肩の力が抜けて、笑みをこぼした。

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