風の道

□赤髪のシャンクス
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セイラの言った通り、グレイスカイを抜けるのは存外簡単だった。
偉大なる航路ではログポースだけが道標となる。あとは航海士の腕次第。だが、それが時に航路を妨げることとなる。

グレイスカイを抜けるには波に逆らわない。

そう言ったセイラの言葉に誰もが半信半疑で、風向きやログポースの指針とは違う方向に船が進んだ時には、舵をとろうとした者たちもいたが、波に逆らわずにいると、その内、指針の向きと航路が一致し、グレイスカイを脱した。

「今回は知識が逆手になったな。」

偉大なる航路は恐ろしいな、と航海士は脱力した様子で言った。

「で、なんでグレイスカイ抜けれたの?」

グレイスカイの抜け方を教えたにも関わらず、その仕組みがよくわかっていないセイラに航海士は苦笑しながら仕組みを教えてやった。

「要は渦を作る風の内、一つだけ、外側に向かって吹く風があったんだよ。俺たちはログポースの方向に進もうと舵をきる。そうすると、その風以外の所を走るから延々と渦を回り続けるってことだ。素直に進めば、勝手に外側に向かう風に乗れるってことだ。」
「へぇ〜、不思議。」

首をかしげている辺り、ちゃんと理解していなさそうだが、これ以上言ってもさらに混乱するだけだと、航海士は説明を中断した。


「た、大変だっ!!」
「どうしたの、ハルタ。」

慌ててこっちにくるハルタにセイラ達は怪訝そうにハルタを見やった。

「あ、赤髪が来るって!!!」
「「は!!?」」








「久しぶりだな、セイラ。」
「ベックマン!!久しぶり!!」

こっそり内密にきたのだろう。
レッドフォース号ではなく、小ぶりの船でやってきた赤髪海賊団は必要最低限の人数だけでやってきた。正確には航路の先で待っていた、という方が正しいのかもしれない。

船にまず乗ってきたのは、赤髪海賊団副船長のベン・ベックマンで、セイラはベックマンを見た瞬間にベックマンに抱きついた。

「随分大人っぽくなったな。」
「えへへ。」

セイラは白ひげ海賊団の一員になる前は度々赤髪海賊団の船にリアンと共に訪れていたのだ。その時からベックマンが大好きだった。これぞ大人の男、といった雰囲気を持ったベックマンはセイラの憧れだった。

「何、お前そんなに赤髪の副船長のこと好きだったの?」
「そうよ。ベックマンかっこいいじゃん。」
「……。」
「だそうですよ、マルコ君。」

マルコの前で堂々とベックマンに抱きつくあたり、他意はないのだろうが、マルコの心中は穏やかではない。

「だっはっはっ!!久しぶりだな、セイラ!」
「あ、かがみっ!!」

突然、響いた笑い声にセイラの表情が一瞬にして歪む。

「何しに来たの。」

明らかにベックマンのときとは異なる低い口調に、セイラの赤髪嫌いが見てとれる。

「相変わらず俺には冷てぇなぁ。せっかくベン連れてきてやったってのによ〜。」
「それとこれとは別よ。」
「…お前なんでそんなに赤髪嫌ってんだよ。」
「生理的に受けつけないの!!」

ふん、とサッチの質問に応えるセイラにサッチも呆れたように、そうか、とこぼした。

「で、わざわざ海軍の目を盗んで来た理由は何だよい。」

赤髪が来る、とわかった時点で若い衆はその覇気に当てられて気を失うからと船内に引っ込めて、メインデッキにいるのは隊長格のみだ。

赤髪は先ほどまでのおちゃらけた雰囲気を潜めて真面目な面持ちでセイラを見た。

「ルナのことでセイラに話があって来た。」

ルナ…それはリアンのことだ。リアンは二つ名の時知らずの魔女として名が通っているのが本名は誰も知らないし、リアン自体も言うことはない。故に人それぞれでリアンの呼び方は違うのだ。多くの者は時知らず、と呼ぶが、白ひげはリアン、赤髪はルナと呼ぶのだ。それぞれが時知らずの魔女に自らがつけた名で呼ぶ。

「白ひげ。土産も持たず、突然押し掛けてすまん。」
「グララララ。構わねぇよ。」

白ひげの前で赤髪と対峙したセイラだったが、昔から白ひげとは異なる赤髪のまっすぐした視線は苦手で居心地が悪かった。
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