ユリリタ

□衣をかえして
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『衣をかえして』




これは夢。
目を開けてすぐにリタはそう心の中で呟く。
でなければ、今のこの状況は有り得ないから。

誰も居ない空間に一人立っている。そんな状況。
思わず、この空間について調査をしたくなるのは、研究者の値のせいだ。
不安はない。
夢だから。

『りーた、リタ?』

離れた後方からの呼び声にリタは驚いて肩を揺らし、弾かれるように振り向く。
忘れようとしても、多分忘れられないだろう相手、ユーリ・ローウェルの声。

『ユーリ?』

目を懲らして見つめると、先程まで遠かった姿が突然目の前に現れる。

『?!』

『リタ…―…置いてくぞ』

どこに行くというのか。リタは問うより前に踵を返したユーリを追う。
いや、夢なのだから別に置いて行かれても構わないし、そもそも現実であれば気にもしなかったかもしれない。
そんなことを片隅で考えながら、行動はそれに伴わなかった。

リタは手を伸ばし、ユーリの手を勢いよく掴んだ。

『リタ?』

驚いて振り向くはずのユーリの表情は、予想外に優しかった。
夢なのだから。
だからこそ、リタは腹が立つ。
けれどやはり、考えと行動は伴わない。

『好き』

本当はずっと

『好きだったの、ユーリ』

『……過去形なのか?』

腹が立つのに、口走った告白の返事を聞いて、リタはユーリを見上げようとした。
そこで、目覚めた。
瞼を持ち上げて、やはり夢だったと息を吐く。
とても心臓に悪い夢だった。
今もまだ、動悸が激しい。

『りーた』

『?!…あ、あんた…っ』

もう一度目を閉じようとした瞬間に聞こえた夢の中と同じ呼び声。
驚くが、横になったままリタは固まって声の主を見上げる。
そして皿に驚いた。
リタの片手は、ユーリの手を掴んでいたのだ。

『ッ…』
『ぅおっ…待った!』


火の魔術を発動させようとするが、リタの口はユーリの手で塞がれてしまう。
が、睨むことは忘れない。
リタの厳しい視線に肩を竦めるユーリだが、すぐに口の端を上げた。

『で?…過去形、なのか?』

『ッ?!!』

目を見開いて、顔に熱が集まるのを知るとリタは怒りというか恥ずかしさというか、照れというべきか、よくわからない感情の元、魔導書を開いて猫の手を召喚すると、ユーリの手から逃れた。
そのまま部屋から飛び出すと、宿屋のエントランスにユーリ以外のメンバーが顔を揃えて居る。

『リタ?熱でも出しました?』

『あれ、ユーリは?』

エステリーゼとカロルの問い掛けに、リタはもう普段のペースを取り戻して、ただ『知らない』と素っ気なく答える。
ジュディスとレイヴンとパティは何やら後から来たユーリと話していた。
その間にリタは逃げるように宿屋を出ると、空を見上げて微笑んだ。

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