桜舞う話

□謎、其の二
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 雪が積もる年末――。
 流石の新選組も、朝から廊下や柱を雑巾かげで走り抜ける隊士たちが増えた。
 障子破りではしゃいだあとは、土方さんの怒声が響いて声が湧く。
 その残骸…もとい、障子を綺麗にしてから、私と千鶴で障子貼り。
 糊を舐めようとする幹部連中に、『舌切り雀』の話をした。
 子供の頃に聞いた時には『何故ノリなんかを舐めるのか?』と、疑問に思ったけど、今はなんとなくわかる気がする。
 もちろん、皆冗談でやってるんだけど。

「おっ、きたきた〜」

 楽しげな永倉さんの声に顔を上げると、沖田と斎藤さんが竹と松を運んで来るところだった。
 門松用なんだろうけど、それにしても大きい。
 門前に二つ飾るものじゃないのかな。
 竹と松が似合う二人に一瞬目を奪われて私は首を振ってから障子貼りに勤しむ。
 が、それも長くは続けられない。
 だって、目の前で斎藤さんが居合い斬りを始めたから。

「……カッコイイ…」

 ついつい斎藤さんの舞にも似た刀捌きに夢中になってしまう。
 それから二人で並ぶと…。

――サッ

 濁った音が響かない綺麗な切り口で竹が斜めに斬られた。
 違う意味で“開いた口が塞がらない”。
 転がった竹の音も風流と、いうやつだ。
 確かに夜闇の中で閃く剣は冷たくて怖いけど、昼間の彼らはカッコイイ。
 何より本人たちが楽しそう。
 彼らを怖がってばかりいる京の人たちは少し損してると思う。

「―…僕なら斬れるよ」

「斬れる斬れないの問題ではない」

 竹を斬り終わって、組み立て始めるのかと思えば、沖田は腕を組んでる。斎藤さんは斎藤さんで何かを言ってるし。
 さっさと終わらせて掃除も手伝って欲しいんだけど。

「どうしたんですかー?」

 話の内容も気になって声をかける。
 と、手招きをされたので、とりあえず行ってみた。

「門松の竹は節を跨いで斜めに斬るんだよ」

「…へぇ、そうなんですか。切る位置なんてあるんですね」

 沖田が先程斬った竹を私たちに見せて説明を始める。
 私には「それがどうした?」って感じ。
 現代では、作るものじゃなくて買うものだしね。

「しかし、総司は横にも斬ることが出来るから横にも斬ると言い出した」

 斎藤さんが沖田を睨むように続ける。
 何故、そんなことで作業が止まるの?しかも深刻な顔になってるし。
 意味がわからない。斬りたいなら斬らせちゃえばいいのに。

「…沖田さんは竹を横に斬れるんですか?凄いですね、流石です!」

 え?何が?
 千鶴が興奮気味に言うから、凄いことなんだろうけど、凄い、の?
 見ると、沖田は自信満々に「まぁね」なんて言ってるし。
 わ、私を見たって私には何が凄いのかもわからないのに。

「…そうか、あんたは太刀を持たないからわからないな。刀とは横には振らない。正確には、通常であれば横に斬るには力が足りない、ということだ」

 つまり、横に斬るのは達人業ということか。

「じゃあ、沖田さんは出来て当たり前じゃないですか。剣の腕は天才ですから」

 当たり前のごとく、私は当たり前のことを言った。

「そんなことを見せびらかしてないで、ちゃんと門松作って下さいよ」

 まったく、子供じゃないんだから。
 と、呆れてから顔を上げると、永倉さんが爆笑し始めた。
 今度は何事?

「そりゃそーだ!一番組組長の総司は凄いからなぁ!」

「…嬉しくないですよ、新八さん」

「またまたぁ、晴ちゃんに認められてるってわかって嬉しいくせによぉ」

「…うむ、隠岐は総司をちゃんと見ているな」

 はぁ?!
 永倉さんは沖田を肘で小突くし、斎藤さんは何か勝手に納得してる。
 沖田は沖田でちょっと嬉しそう。
 千鶴も笑って…。

「もう!横でも斜めでもさっさと門松作業して下さいよ!」

 恥ずかしさに耐えられない!
 と、話を進めようとしたら斎藤さんが真顔で口を開いた。

「斜めでなければ意味が無い。節目が見えることで神々を笑顔で迎えるのだからな」

「ついでにアレだろ?大樹公が願掛けで斜めに切ったって話もあるよな?」

 信神深いなぁ。
 でも、確かに竹の節目の下が口で、笑ってるように見えるかも。
 今まで気にしたことなかったけど、面白い。

「…ぷっ…つられてるって」

 へっ?
 ふき出す沖田に言われてニヤけてたかとに気づく。
 失態だっ。

「晴ちゃん、可愛いよ」

「か…っ」

 沖田はニヤニヤと笑いながら一度だけ私の頭を撫でて行くし。
 はぁーーーっ
 私はその場に座り込んで頭を抱えた。
 今年最後の赤面だといいな、と思いつつ。




 
※門松には諸説あります


皆様良い お年を〜

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