sonic
□Hello,moon
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うー…とぶすくれながら、とことこと夜道を歩くこと20分程。
何故不機嫌なのかというと、実は人を探しているのだ。
と言っても、友達ではないし、まして知り合いでもない、フレアのが一方通行に顔を知っている程度だ。
けれど、いつも天文台の塔にいる姿が無いだけで、こんなにも落ち着かない。
(夜になったら、いつもそこにいるのに。)
その人物を初めて見かけたのは偶然だった。
繁華街から家に帰る途中、いつも街灯だけが頼りの暗い道が、やけに明るく感じたのだ。
ふと今日は満月なんだったと思い出し空を仰いだ。
すると満月を背に、天文台が目に入った。その天文台のシルエットの一部が揺らいだ、と思うとそれはすぐに実体を結んだ。
月明かりに照らされてこちらの方へ振り向いたのは、大きな狼の様な姿をしていた。
いつしか、街から家に戻るときはその塔が見える道を使うようになり、しょっちゅう道端で立ち止まっては空を、もとい塔を見上げるような習慣がついてしまった。
しかし、今日はその姿がない。
いつも有るものが無いだけですっかり不安になったフレアは、仕方なく帰り道を急いだ。
その時。ずるずると何かを引きずるような音が聞こえて、咄嗟に肩を丸めた。
「なに、今の。」
もしも変な人だったら嫌だ。
そう思って肩に掛けていたカバンを両手で掴む。
今日は英和辞典が入ってるからそれなりにダメージを与えられるかもしれない。
などと下らない事を考えてる間にもずるずるという音が近づいてきている。
はい、齢14才フレア、腹、括りました。
意を決してカバンを振り上げる。
「食らえ正義の鉄槌!百科…間違えた!英和辞典を!成敗ぃ!!」
「W,What!?NooooooO!」
「……本っ当にごめん。怪我をしていたのに追い討ちをかけるような真似をして。」
「いや、そんな音をたててた自覚がなかった俺のせいだから、気にするなよ。夜道にそんな事されたら怖いよな。」
ぶん殴った針ネズミ?狼?は、あの天文台の塔にいつもいる人で自分をソニックと名乗った。
ずるずるという音は、ソニックが長い手を引きずっていた音だったそうだ。
事情をかいつまんで説明し、謝りながら、せめてもと所持していた絆創膏を叩いてしまった手にぺたりとはった。
ソニックと名乗ったその人物は、殴ったことを怒るわけでも責めるわけでもなく、苦笑いを返した。
「にしてもソニック、さん。なんでこんなに怪我をしてるの?」
「別に呼び捨てで構わないぜ?Ahー、まぁちょっと暴れたからな。」
「暴れた?」
「Yes!」
「なにやってるんだか。怪我までして。」
「世界を守るためだ!」
本当に心配になった。
「……頭打った?」
「NO!」
「………ふふっ、世界を守るなんて。…っふふ。」
「今なんか馬鹿にしなかったか?」
「ううん、そうじゃなくて。ほら、今あちこちで、世界の大陸がバラバラになったっていうニュースでもちきりでしょう?なら、世界を救うって言った貴方が直してくれてるのかなぁなんて思っただけ。」
すると、ソニックが一瞬目を真ん丸にした。
何故そんなことをするのか分からなくて、少し首をかしげて訪ねようとすると、ソニックの方が先に口を開いた。
「信じてくれるのか?」
「うん!でも、そんな人を殴っちゃったのよね。ごめんなさい。他の怪我は、きっと星を壊そうとしてる何かと戦って傷ついたんでしょ。あたし、何にも知らなくてひどいことしちゃって…。」
「NO!さっきも言ったが俺の不注意さ。だからそんなに自分の責めないでくれ。OK?」
「ふふっ。うん、ありがとう。ソニックは優しいね。」
にこりと笑うと、ソニックの動きが何故か固まったような感じがした。
何か変なことを言っただろうか?
「…とにかく、殴っちゃったのは申し訳なかったわ。あたし、この先少し行った所にある教会に住んでるの。怪我したら、いつでも来て。手当てとか休める場所くらいなら提供出来るから。」
ほんとに軽い怪我しか直せないけどね。と苦笑いして言うと、彼がニヤリと不適に笑った。
「Thanks!なら、いつか行かせてもらうな。その時は、狼に喰われないように気を付けろよ。」
「へ?」
言葉の意味を理解するより早く、ソニックがあたしの手をとると手の甲にキスをした。
ぼふんと一瞬で顔が真っ赤になる。
白い湯気でも出そうなくらい顔が熱い。
「なっなななにして…?!」
「また会おうぜ、フレア。」
とたんに彼が大きく上へと飛び上がった。
屋根ずたいに満月の方へ走っていく彼を見て、次にどんな顔で天文台を見上げればいいのか分からなくなってしまって、拗ねるように顔をプイッと彼からそらして家へと急ぎ足に帰った。
けれど少しだけ、次の夜が待ち遠しいなんて思ったのは、あたしだけの秘密だ。
Hello、Moon。
明日も彼に会えたらいいな。