優しさのluce

□3
1ページ/1ページ

「あら、▲▲ちゃん早いわね〜」
「ええ、そりゃあもう」

現時刻9時20分
打ち合わせ時間より40分前に到着しました。
まだシャイニーもいないわよと林檎ちゃんが教えてくれた。
相変わらずかわいい。

さて…この有り余った時間をどうするべきか。
作詞でもするか…
いや今は無理だわ頭が回らない。
いつもはしない緊張で手に汗がにじんでいる。
さすがに打ち合わせなので、アイドル●●▲▲として身なりは整えた。
なのにだらだら汗がにじむ。
化粧が崩れる…。

「なぁに〜▲▲ちゃん、今日は珍しく緊張してるのねー」
「ええ、そりゃあもう…」
「そんなに力入れないでリラックスしなさい♪」

背後から私の肩を軽く揉み、じゃあね〜と手をヒラヒラさせて林檎ちゃんは扉の外へと去っていった。

リラックスと言われても…
来栖に聞いた話が本当ならば、私にはこれから地獄の日々が待っている。

しかし、彼よりも先に到着しているため、少しは緩和されるだろうか。
来栖は美風さんとの待ち合わせで遅刻はしていないが美風さんよりも遅かったことでガミガミ言われ、更に四ノ宮が大遅刻したせいで、その場の飲食代をすべて支払いさせられた…とのこと。

冗談じゃない…。


はぁ。


ふいに時計を見ると長針が30分をさしていた。
するとガチャ、と静かに扉が開いてふわりと鮮やかなグリーンの髪の毛がなびいた。


美風藍、だ。

すぐに私の存在に気付き、目があった。
…………あれ…?
思った以上に優しい瞳。
どれだけ鬼の形相をしてるのかとびくびくしていたのに。


「おはようございます、美風さん」

すくっとソファーから立ち上がり、アイドルな笑顔で私は美風さんに挨拶をした。
年下とは言え、アイドルとしては彼は先輩だ。

「おはよ。へー、意外だね。もっとちゃらんぽらんなアイドルかと思っていたのに」
「……………………」

ちゃらんぽらん…?
ん?あのかわいいお口から発せられたのか…まったく理解不能。

「は…ははは…」
「それと、ボクより早く居たアイドルはキミが初めてかも」
「こ、光栄です…」


あー…すべては来栖翔さまのおかけでございます…。
本当は遅くとも10分前に行くつもりだったし…。

というか早すぎるのも失礼だろ…これは先輩後輩関係無く、美風藍ルールというやつだろ。

暴君だ、暴君。






「……………」
「……………」

何この沈黙…

「あ、あの…お茶入れましょうか…」
「ボクは要らないよ」
「左様ですか…」


自分だけ飲むのもアレなので…やめた。

見れば見るほど綺麗な顔立ちで目を奪われてしまう…なのに…口を開くとヒューっと冷たい冷たい風が吹く。
来栖と四ノ宮はすごいな。
どうやってこの冷たさに耐えたんだろう。


時計を見ると10時5分前。
そろそろ学園長と日向先生も来る時間だろう。
つか早く来てくれ。
七海さんとの顔合わせはスケジュールの都合で次回らしい。
卒業以来まともに顔を合わせるなんて無かったから楽しみだ。








ガタ……ガタガタ……ミシ…


ん?

天井から何やら音が…する。

と、上を見た瞬間、




『とぉ――――――う!!!』


天井を突き破り、学園長が降ってきた………


「!!!!!」


そうだ…学園長がまともに登場するわけない。

飛び散る破壊された天井の破片。
散乱する天井の破片。
登場の際に使用された白いスモークのせいで周りの状況が分からない。
しかし辺り一面大惨事…なのはなんとなく分かる。



がつっ

「痛っ」

破片の一部が頭の上に落下。

もうなんなんだ…。

涙目になりながら痛みが走った部分を手でさする。

「擦っちゃだめだよ」
「え」

声がしたほうに視線をやるとそこには美風さんがいた。

「ここで打ち合わせは無理だから。とりあえず出るよ」
「え、でも学園長は…」
「埋めといたから大丈夫でしょ」
「う、埋め…え、」

ドンドン、ドンドンドン

『出してクダサーイ!ミカゼサーン!!』


「さ、行くよ」

え、なんか床から声が聞こえる…。
何ものなの美風藍。

私の手を引っ張り、廊下に出ると壁を背にして日向先生が立っていた。

「あとはよろしく」
「おー」


日向先生は生返事で返すと手をぴらぴらさせて中へと入っていった。
え、なんかもう皆さん計算済みたいな行動取ってらっしゃるけど……まさか今日の打ち合わせのための打ち合わせをしたとか…。
えー………そんなわけないよね……うん。







さて、私たちはどこへ向かうのでしょうか。
繋がれた手から美風さんの体温が伝わってくる。





どきん………








あれ?


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ