優しさのluce
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レッスン…美風さんが私にレッスン?
「ボクが弾くから、歌ってみてよ」
「あ、はい」
美風さんが弾き始めた曲は私の曲だった。
まさかわざわざ聞いてくれたんだろうか。
しかもカップリングの曲…
私が作曲したものだ。
ちょっとした感動に浸りながら私は歌い終わると床にへたりこんだ。
「はぁ…緊張したぁ…」
「ちょっと…こんなんで緊張とかやめてくれる?」
「ああ、すみません…。だって美風さん私の曲弾くんだもん」
「キミのデータは把握しているつもりだからね」
「え…ぜ、ぜんぶ…?」
「……そのつもり…だけど」
まさか本当は20歳というのも知ってるのか…?
いやいや、シャイニング事務所の先輩方は知らないはず……
しかし…その話題は出ていないから大丈夫だよね…
とりあえず立ち上がって美風さんに「ではご助言願います!」とにこやかに言うと「そうだね…」と私の脇腹に手を添えた。
え、え、え??
「み、美風さん!?」
「ボクなりにキミの歌声のブレの原因を考えてみたんだけど………、腹筋とかはやってるの?」
「腹筋と背筋は毎日欠かしません」
「だね、ちゃんと鍛えてある。…今夜からは腹斜筋…いわゆる側筋も加えてみて」
「ここ、ですか」
言ってウエスト部分に手を当てると美風さんは頷いた。
……学生時代に言われたような気もするけどすっかり忘れていたわ。
「四方から支えることによって声の出し方もよりコントロールがきくからね」
「は、はい」
体型も維持しなければならないのもあり…過度な筋トレは避けていたけど…必要な筋肉はきちんと付けなきゃだわ…。
ソファーに戻り、すっかり中身が冷めたティーカップを手に取り飲み始めた美風さんに私は慌てて新しいのを用意するとキッチンに戻ろうとしたけれど、ボクは冷めた紅茶も好きだよと言ってくれた。
顔は真顔のままだったけれど、美風さんなりの優しさなんだろうな…。
「そうだ……言っておくけど、ボクの歌声は確立されているわけじゃないよ」
「え…」
「さっき言っていたでしょ…ボクの歌声は確立されてるけど、って」
「美風さんもブレるんですか?」
「声がブレるのは技術的な問題だよ」
「あ、すみません…」
「ボクは歌っていて…自分の歌声に満足なんてしたことないんだよ…。だから確立されてるとは言えないよ」
完璧だと思っていた美風さんは、そうではなかったこの事実に私はちょっとときめきを覚えた。
そんなこと言ったら怒られそうだけど…急に美風さんに近付けた気がして嬉しかったんだ。
「美風さん、」
「なに?」
「良い曲にしましょうね」
「そのつもりだよ、ボクは」
憎まれ口も可愛さに思えてきた私は来栖にどう思われるかな。