優しさのluce
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七海さんが頑張りすぎて倒れてしまった。
たまたまレッスン室の前を通ったときに、鍵盤を叩きつける音がして何かと思えばピアノの下で倒れている七海さんが居たわけで…。
心臓が止まるかと思った。
私だけじゃ七海さんを運ぶことが出来なくて…どうしようかと考えていたら仕事帰りの来栖を見かけてひっ捕まえて私のとりあえず部屋へと運んだ。
ちっちゃい癖に来栖は七海さんを軽々と持ち上げて運んでいるのを見て、ああやっぱり男の子よねぇ…としみじみ思った。
普段、弄られ役の来栖だけれど、一番まともなのは来栖だと私は思うしね。
「なー●●、こんな感じでいいよな」
「んー…(もぐもぐ)……うん!おいしー!マジなにこれお粥のくせに美味しい…今日夕飯これでいいよ私」
「褒めたって何も出ねえぞ」
「いやいや本当にお世辞じゃないよ」
それから寝室に行くと、七海さんはうっすらと目を開けた。
「ここは…」
「七海、大丈夫か?」
「しょ…翔くん…!?」
「おう。あ、ちなみにここはこいつの部屋だぜ」
「…………」
ゆるゆると目線が来栖から私へと移り、一気に大きな瞳を見開いた。
「●●さん!!!!!」
「ああああ〜!起きなくていい起きなくていい!!つか七海さん倒れたんだよ?覚えてる?」
「……………な、なんとなく覚えています…曲作りが完了して………」
「気が抜けてぶっ倒れたってわけか…ったくよー…お前相変わらずだな…」
「…本当にびっくりしたんだから。とにかくこれ食べて!来栖が作ったんだよ」
「え、翔くんが?」
「おう!食べて元気出せ」
「は、はい!」
幸い熱も無いし、多分過労だろうなぁ。
目の隈も酷いし。
聞けば寝ず食わずで数日作曲をしていたとのこと。
なんて無茶をするんだ…。
でもプロとしては仕方のないことか…どうしたって〆切はあるし…私みたいに誰かの作ったものを唄うだけとは訳が違う。
「とりあえず今日は泊まっていって七海さん。体も怠いだろうし、ちょっと睡眠取ったほうがいいよ」
「…う……ありがとうございます…」
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「寝たか?七海、」
「うん」
部屋着を貸して、お話をしている間に七海さんは眠った。
ほんの数分で落ちたから相当疲れが溜まってるんだね…
今夜私はソファーで寝るとしよう。
なんだか女の子を泊める男の子な気分だわ……!!
「さてと、私もご飯食べよっと」
「俺も食ってっていいか?」
「もちろん」
「じゃあちょっと温めるから待ってろ」
「あーなんかご飯が勝手に出てくるとか感動だわ」
「んな大袈裟な」
「一家に一人、来栖翔だね」
「お前なぁ…俺をなんだと…」
「うそうそ。本当にすごいなぁって思ってるんだから」
「まあ…もともと家事くらいはできたけど、マスターコースの寮にいたときは栄養価だとか藍がすべて管理してたからな、だいぶ勉強になったぜ」
「す、すごい…!」
「ただ…数グラムでもミスれば…」
「ミスれば…?」
「…藍の雷が落ちる」
そ、そんなに?
来栖が本気で影背負って怯えている…!
「と、とりあえず食おうぜ」
「う、うん。いただきます!」
冷蔵庫に入ってたものを適当に合わせておかずまで用意してくれた来栖はマジ天使。
「ねぇ来栖…美風さん…想像以上に優しいんだけど…」
「ぶっ…!!!」
汚なっ!!
「あ、悪ぃ悪ぃ…」
「ったく…」
…………あ、
私はあることを思い出した。
「……いや、興味深いね、キミ。ショウの言う通り面白い」
「ちょ、来栖…何言ったんですか…」
「キミがオフの日に寮に行ってみろって言われてね。そういうことか」
………………。
「くーるーすーー!!マジころーす!!!!!」
「え、え、うっわ!ちょ、痛ぇ!離せ馬鹿!苦し…っ…ぐ、ぇ…」
「あんた美風さんに何言ったの!!オフの私は面白いだとぉ!?この口かこの口が言ったのかぁ!」
「いへぇっ!!(痛ぇっ)」
それからどのくらいの時が流れただろう…
来栖に説教喰らわせていたら、時計は0時を回っていた…。
やばい寝なければ。
「悪かったって言ってるだろ…。…つかマジで藍がお前んちに行くとか思わなかったしよ…」
「あ…ねえ、それより…」
「それより…って…人を散々罵倒しといて…」
「もー気がすんだからいいの」
来栖は、そりゃ良かったとため息混じりで吐いた。
何よ…誰のせいだと思ってるの…。
まあいいわ…今日は来栖が居てくれたからどうにかなったし。
「で、なんだよ」
「んー…美風さんて私の秘密は…知ってるの…?」
「え…なんか言われたのか?」
「いや、私のデータは把握してるとか言っていたから…」
「どうだろ…さすがに知ってんのかとかそこまでわかんねーけど、もし知ってたら藍のことだから言ってきそうじゃねえ?」
「そっかなぁ…」
ということで、あやふやなまま今日は解散になった。
毛布にくるまってソファーにごろんとする。
目を瞑るとなぜだか美風さんの顔が浮かんだ…。
今度、思い切って聞いてみようか…。
いや、やめよ…
もし知らなかった場合のリスクのほうがはるかに高いからね。