未来夢叶
□2:隠した心
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未来には希望が満ちているなんて、誰が言ったのだろう。
未来は輝いているなんて、そんなのウソだ。
光なんて、どこにもありはしない。
あるのは、絶望と虚構。
光り輝く未来なんて、あるはずがない。
そう、こんな
こんな壊れかけた世界の未来なんて……
なのに、どうして
俺は、『未来』なのだろう……。
「未来」
「……」
施設へ帰り、共同リビングでテレビを見ていた未来は、名前を呼ばれて、ひどく不機嫌そうな顔で、ソファー越しに振り返った。
「うっわ、いつにもまして、ぶっあいそうな顔してるわねー」
振り向いた未来の顔を見るなりそう言ったのは、1人の女性。
見るからにしっかり者といった雰囲気のこの女性は、名を、紫央里という。
未来たちより2つ上で、2人がこの施設に入った頃から何かと世話を焼いてくれている、双子の兄弟にとっての姉のような存在だ。
「紫央里姉さんか…何か用?」
未来は尋ねながら、さっさとテレビに目を戻す。
「何か用じゃないわよ!」
すると紫央里は、そう言いながら突然ツカツカと歩み寄ってきたかと思うと、未来からリモコンを奪い取り、テレビを消した。
「あ、ちょっ、何すんだよ」
未来が非難めいた目で紫央里を見上げると、紫央里は無言で未来の真正面に仁王立ちし、腰に手をあて、じろっと未来をにらみつけると、言った。
「未来、あんたまた叶にキツイこと言ったんでしょ」
「…は?」
紫央里の唐突な尋問に、未来は顔をしかめた。
「叶、帰ってきたときすごく元気なかったわよ」
「知るかよそんなん…」
未来は面倒くさそうに言って、問いただしてくる紫央里から目をそらした。
「知らないわけないでしょ? 叶が元気ないときは、大体あんたが原因なのよ」
紫央里は確信している様子で言った。
「……」
未来の脳裏に、ひどく愕然としていた叶の顔がよぎった。
未来は肯定も否定もできないまま、黙り込む。
そんな未来を見て、紫央里は1つ、小さなため息をついた。
「ほらやっぱり……何であんたは、そう叶に冷たくするのよ」
「……関係ないだろ」
紫央里の質問に、未来は低い声で返した。
「関係ないってね、あんた! 叶はあんたのたった1人の弟でしょ!? 血のつながった兄弟でしょ!?」
「そういうのが関係ないって言ってんだよ!!」
未来は紫央里の言葉に声を荒げて、立ち上がった。
紫央里は驚いたように目を見開いて、未来を見つめた。
「兄弟とか血のつながりとか! そんなの関係ないんだよ!……どうせいつか離れるかもしれない…そうなれば、何もかも関係なくなるだろ!」
未来は言った。
そう、何もかも関係ない。
だからこそ、2人の両親は、2人を平気で捨てた――――――未来はそう思っている。
いつまでも一緒にいられるかなど、誰にもわからないのだ。
この孤児院で育った子供は、18歳になったら、自立して生きていくために、ここを出て行かなくてはならない。
紫央里がそうだった。
紫央里は今年で18歳になり、今年中に、ここを出て行ってしまう。
姉のように慕っていた紫央里が、いなくなってしまう、離れていってしまう。
叶とだって、ここを出てからもずっと一緒にいられるとはかぎらない。
離れてしまうかもしれない。
だったら―――――――――――
「…ほっといてくれよ、もう」
未来は言って、紫央里の前から立ち去ろうとした。
「……未来、あんたは何をこわがっているの?」
背を向けた未来に向かって、紫央里は静かな声でそう尋ねた。
「…は?」
意味がわからないという顔で未来が振り向くと、紫央里の怒っているような、たしなめているかのような表情が、あった。
「あんた、子供みたいだよ」
「何言って…」
「まるで、ヤダヤダって駄々こねてる子供みたい」
「……!」
未来はその言葉に、目を丸くした。
とまどっているような未来の目をじっと見つめ、紫央里はつづける。
「未来、意地張ってても仕方ないわよ? 自分の気持ちに素直になりなさいよ。
未来、本当は誰よりもあんたが―――――――」
「うるさいな!」
未来は怒鳴って、紫央里の言葉をさえぎる。
「未来…」
「ほっといてくれって、言ってるだろ…!」
未来は吐き捨てるようにそう言って、再び紫央里に背を向け歩き出す。
「未来」
その未来の背に、紫央里はさとすように言った。
「それでも叶は、あんたのたった1人の弟なのよ。命をわけあった、双子の兄弟なのよ」
紫央里の言葉に、未来は応えなかった…。