真の願い

□第22話β 穏やかなる日常を
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「うわぁ…可愛い!!!」

翌日。
空海とれなは水族館の中にいた。
2人が見ているのはペンギンの群れだ。

「はわぁあ…こんなに可愛い子たちがいるなんて…どうしよう、もう満足してきちゃった!」
「ハハッ!こんな序盤で言ってたら最後までもたねぇぞ?」
「ええっ!どうしよう!」

本当に嬉しそうに笑うれな。
空海は水槽の中の動物たちよりも彼女に見とれていた。

彼が彼女をここに誘った理由は他でもない。
最近大変なことばかりだったと聞いて気分転換をさせてあげたかったのだ。

「(ま、デートしたかったってのもあるけど。にしても楽しそうだな)」

きらきらとした瞳で動物たちを見つめるれな。
このまま放っておけばずっとこの場にいるかもしれない。

「いつまでもここにいたら日が暮れちまうぞ?ほられな。行くぞ!」

空海はれなの手を取って歩き出した。

「あ、わっ…待って待ってー!!」

その手を握り返し、れなは空海の後を追いかけた。





「いやー、回ったなぁ」
「うん。もう…すっごい楽しかった!」

2人は今、水族館の中にあるカフェで休憩している。
一体何時間かけて中を見回っていただろうか。
行く先々でれなは動きをとめて水槽を眺めては、目をきらきらさせていた。

「ペンギンもそうだしイルカも可愛い。ラッコもすっごく可愛くて…もうどうしたらいいか」
「ハハッ。れなはよっぽど海の動物が好きなんだな」
「だーって可愛いんだもん!!」

そんな彼女の左手にはブレスレットが、腕の中には、大きなペンギンのぬいぐるみが抱かれている。
これは両方お土産屋さんで購入したものだ。

ブレスレットはビーズと貝殻のついたもので、空海が彼女に買ってあげたもの。
ぬいぐるみは彼女が自費で購入したものだ。
飲み物を口にしながら、気がつけばぬいぐるみの頭をブレスレットをつけた左手で愛おしげに撫でている。

「よっぽど気に入ってるんだな、それ」
「うん。両方とも一目惚れしちゃった!」

少々値は張ったが、自分としては大満足だ。
複数も自分用のお土産を買ってよいものかとブレスレットも購入するか迷っていたところ、なんと空海が買ってくれたのだ。

「ブレスレット、本当にありがとうね」
「気にすんな。流石にぬいぐるみは買ってやれなくてごめんな」
「いやいや、流石にこっちは悪いよ」

空海はペンギンの頭をぐりぐりと撫でた。
おおっ…これやわらけぇ!と驚きの表情を浮かべている。
その様子がなんだかおかしくて、れなはくすっと笑った。

「お?今笑ったか」
「ふふ。ううん。笑ってないよ」
「いや、笑ってるだろ」
「笑ってないってば」

言いながら、どうしても笑みがこぼれてしまう。
今の空海がとても可愛かったなんて口が裂けても言えない。

「ったく…」

空海は優しい撫で方に変えると、呟くように言った。

「そこは俺の場所だっての」
「…へ?」

思わぬ空海の発言に顔が熱くなる。
そこ、とは自分の膝の上のことで、俺の場所、とは…。

「あっいや…そういう、意味じゃっ…!」

無意識に出た発言だったのか、空海は顔を赤く染めて必死にフォローし始めた。
その様子もなんだかおかしくて、れなは噴き出した。
そして思いついたことがそのままするっと言葉に出た。

「膝枕、してあげようか?」
「ッ!?」

空海は声にならない驚きの声をあげて、顔をますます赤く染めた。
思わぬ言葉が出てしまった、とれなも赤くなるが、それを隠すようににっこりと笑った。

「いつか、ね」
「…お、おう」

恥ずかしそうに笑う2人。
2人の間の空気はとても楽しげで、甘いものだった。
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