真の願い

□第22話 迫りくる選択
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チュンッチュンッ…

鳥の鳴き声がする。
ああ、もう朝か…。
ゆっくりと瞼を開くと、明るくなった室内が視界に入った。
カーテンの隙間から日差しが入り込んでくる。
今日も良く寝たな、と大きく伸びをするとけだるかった体もゆっくりと動き出す。


平和な日常。
この部屋で目を覚ますのは、いつぶりだろうか。
懐かしむように部屋を見回す。
机に衣装箪笥、クローゼット。ほかにも生活に必要な家具が取り揃えてある。
そう、私は以前住んでいたマンションに昨日から帰ってきている。


ブラックダイヤモンズ事件からはや一月が経過した。
あれから状況は目覚ましく変化している。


ゆかり姉さんと歌唄お姉ちゃんはイースターを退職、新しい事務所に転職した。
といっても、イースターを敵に回した時点で他の事務所には移れない。


そこでゆかり姉さんは今までの貯金をはたいて新しい事務所を作り上げた。
その名も"三条プロダクション"。
事務所経営は大変なようで、毎日忙しそうに走り回っている。
しかし、どこか楽しそうに見えるのは気のせいではないだろう。


歌唄お姉ちゃんはゆかり姉さんの手伝いもしながら、歌のレッスンも欠かさず続けているとか。
悲しいかな引っ張りだこだった以前より忙しくはないようで、時々会っては一緒に遊んだり歌のレッスンをしてくれたりと、今も仲良くしている。

歌について話したり歌っているときの歌唄お姉ちゃんは以前より楽しそうで輝いて見える。
今の歌唄お姉ちゃんはとても幸せそうだ。


新事務所発足も落ち着いて、手伝えることがほぼなくなったあるとき、ゆかり姉さんにあることを伝えられた。
それは、"これからまた一緒に暮らすことはできない"ということ。

その理由は、新事務所の場所が今の家から遠いため引っ越しするからだ。
つまり、引っ越し先からでは聖夜小から離れた場所になってしまう。
通学路が長くなってしまうと、登下校に時間がかかるしなにより危険だ。
しかも、新事務所設立で貯金が底をついたため、事務所の経営が落ち着くまでは事務所に住み込み状態になるそうで、一緒に住むのは難しくなってしまった。

今までの生活に戻るだけで不安はあまりないが少し寂しくはある。
しかし、姉さんの邪魔はしたくない。
心苦しそうな表情をした姉さんに平謝りされ、私は寂しい気持ちを押し殺して了承した。


そして最後に今まで一緒に姉さんの手伝いをしていた海里はというと、なんと九州の学校に帰ってしまった。
元々3学期には帰る予定だったとかで、ガーディアンの皆でとめたが、海里の意思は強く引き留めることはできなかった。

空港でお別れを伝えたとき、海里があむに告白していた。
人前だというのに、なんとまあ潔い。
と驚きながらも感心していると、"姉さんもいつまでも揺れてないで、一人にしぼってくださいね"と耳打ちされた。
彼はいつもどこか鋭い。


「告白…かぁ…」

ふと、思い出す。
去年の卒業式の日、空海に告白されたことを。

そっと自分の唇に触れてみる。
あの日はいろいろあった。
空海、唯世、幾斗。3人に口づけられた日。
最近忙しすぎて考える暇もなかったが、思い出すととても恥ずかしい。

空海には直接言葉で告白されたが、ほか2人からはされていない。
口づけられたということは、嫌われているわけではないと思う。
期待していいことなのかもしれない。実のところはわからないけれど。

空海にはまだ返事をしていない。
わからないのだ。自分の気持ちが。
自分は誰が好きなのか。

なぎひこに相談したときには焦らなくていいとは言われたけれど、いつまでも優柔不断ではいられない。

そういえば。

「なぎひこ元気かなぁ…」

過去に一度だけ会ったことのある男の子、藤咲なぎひこ。
なでしこの双子の兄。
恋愛のことで相談に乗ってもらったことがある。
元気にしているだろうか。

会いたいな、と思うも、彼は今なでしことともに留学しているはずだ。
会うことはできないだろう。

そうだ、と思い立った。
今日は何の予定もない。
会うことはできないだろうが、久々に学校に行ってみようかな。
休学解除と同時に冬休みに入ってしまい、学校には長いこと通っていない。
ロイヤルガーデンにでもいこうか。
もしかしたら誰かいるかもしれない。

久しぶりの学校に思いを馳せるといよいよ行きたい気持ちが高まってきた。
思い立ったら吉日。
よし、今日は学校に行こう。
ベッドから出て、私は出かける支度を整えることにした。
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