真の願い

□第22話γ 共に歩む毎日を
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「私も書類整理手伝おうかな」

片付けを終えると、れなは唯世に向き合った。

「え、いいの?時間は大丈夫?」
「うん、唯世1人に整理させるのもなんだか悪いし…それに、今日は元々私がいなかった間の活動日誌を読むのが目的だったし」
「そっか。ありがとう。助かるよ」

唯世は嬉しそうに笑ってくれた。
なぎひこと空海に別れを告げると、2人で書類の整理を始めた。
お茶会を始める前にある程度終わっていたらしいが、それでも整理すべき書類の量は膨大。
整理が終わったのは始めてから2時間ほど経った頃だった。

「ふぅ…終わったー」
「お疲れ様。手伝ってくれてありがとう、神谷さん」
「ううん。むしろいつもありがとうね」

こういった書類関係の整理は大体唯世1人が行っている。
海里がいたときは2人でやっていたようだが、2人でこなしていた量を1人でこなしてきたというのは大変な労力だっただろう。
もう少し唯世に協力しないといけないな…とれなは心の中で呟いた。

「ところで神谷さん」
「ん、なに?」
「ちょっとこれを見てほしいんだ」

整理に疲れて椅子の背もたれに背を預けていると、唯世が1冊の古いノートを出してきた。

「なにこれ?」
「神谷さんが持ってる、リカバリークロスについて書かれてるノートだよ」

中を見てみると、そこにはリストレイションチェーンからリカバリークロスへのレベルアップ法やその性質について詳細に記されていた。

「ここには詳細にリカバリークロスについて書かれている。けれど、具体的な能力については書かれてないんだ」

自らが持ち主を選ぶということ、ハンプティロックやダンプティキーより格段に強い力を持っていること。
今まで唯世や海里たちが仕入れていた情報についても書かれている。
確かに性質やレベルアップ法については書かれているが、細かい効力については一切記述されていない。

「今までクロスに選ばれた人は長い間いなかった。だからクロスの効力についての記述が少ないんだ。
…今後、神谷さん以外にもクロスに選ばれる人が出てくるかもしれない。
だから神谷さん、今わかっているだけの情報をここに書き足してもらえないかな?」

真剣な目で唯世がお願いしてきた。
確かに、れながクロスを手にしたとき、それがどんな力を持っているのかさっぱりわからなかった。
これから先自分以外にもクロスを所有する人が出てくるかもしれない。
そのとき効力がわからなければ自分と同じように困惑してしまうかもしれない。

唯世はずっと先の、後輩のことも考えている。
自分のこと以外の周囲にも目を配っている。
心の中で唯世のすごさを実感した。

「うん、いいよ」
「ありがとう、神谷さん」

れなは唯世のお願いを快く引き受けた。
クロスの効力についてわかっているのは4つだ。

・まだ心が未熟であってもある程度の意志があるのならばその人間に対してキャラなりを促す
・体力を消耗することなく、持ち主以外とのキャラなりを促す
・1人のしゅごキャラに対して複数人に同じキャラなりを促す
・複数のしゅごキャラの融合、キャラユニオンを引き起こす

「こんなところかな」

記述を終えると、れなはペンを置いた。

「ありがとう、神谷さん」
「それにしても、なんでこんなものがあるんだろうね」

考えてみればハンプティロックもダンプティロックも誰が何のために作ったものかはわからない。
そして、このリカバリークロス。
まるでこの2つに対抗するために作られたもののようにも思える。

「…何の目的で作ったのかな」

恐ろしい目的だったらどうしよう。
そう思うと、体が震えた。

なんだか怖くなって、れなは唯世の服の袖をつかんだ。
唯世は驚いた表情を見せたがすぐに心配そうな顔をした。

袖を握る力が強くなる。
唯世は空いた手で、自分の服の袖をつかんでいるれなの手を優しく包んだ。
その手はとても温かくてなんだか安心できた。

「大丈夫だよ、神谷さん」

優しい唯世の声。
心が徐々に落ち着いていく。
唯世は袖かられなの手を離させると、その手を両手で包み込んだ。
そして優しい表情でれなの目を見つめた。

「大丈夫だよ。皆がついてる。…頼りないかもしれないけど、僕もここにいるよ」

その言葉は本心からでていると、本能的に感じた。
なにを不安に思っていたのだろうと呆れてしまうくらいに、れなは心の底から安心した。

「…ありがとう、唯世」

そうしてにっこりと唯世に笑い返した。

優しい唯世。これからも一緒に過ごしていける。
大丈夫だ。ただの自分の想像だ。不安に思うことはない。
たとえ何があろうとも、この穏やかな毎日を暮らしていけるはずだから。
 

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