melancholy 10s

□G
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世の中くだらないと思っていたら、本当にくだらなくなった。

俺達ってのはいつも天気予報に裏切られて、その度に舌打ちを打っている。
今日だって快晴、過ごしやすい陽気…という話だったのに。窓の外はバケツをひっくり返したような土砂降りだ。傘が無いと皆が嘆くから、コンビニのビニールが差は飛ぶように売られていく。後で電車とかに置き去りにしてしまうというのに。彼もまだ裏切りの犠牲者だ。
俺も、雨の日は嫌いだ。髪形が決まらないから…というのは冗談で、昼休みに屋上にいけなくなるからだ。俺は総悟のように堂々と授業中にいくようなことはしないから、貴重な40分の昼休みに、一人になれる屋上に行く。そしてそこで内ポケットに隠した煙草を吸ったりするのだ。そうすることで、俺はこのくだらない世の中で呼吸できるような気がしていた。雨の日はそれが、できない。
冷え切った雨の所為ですっかり体温を奪われてしまった屋上へと続く階段に仕方がなく座って、俺は煙草を咥えていた。隣には昨晩一夜を共にしただけの彼女気取りの女。俺の体にピッタリと寄り添っている。お前も、体温を奪う気なのか?

ああ、くだらない。
作られた仕草も、マニュアル通りの表情も。
流行り物しか載せない雑誌も、嘘ばかりの人気番組も。
子供を貶す大人も、大人を見下す子供も。
仕組まれた関係も、独りよがりの孤独も。

みんな、みんな、くだらない。
こんな世の中に生きている俺も、もれなくくだらない。

「おー…いひじかたー」

下の方から誰かが俺を呼んでいる。逆蜘蛛の糸?なんて馬鹿げたことを考えていたら、その間延びした俺の名前を呼ぶ声に少し遅れて、階段の踊り場に総悟が顔を出した。

「やっぱりここにいたんですかィ。ギンパチが呼んでますぜ」

総悟は眉間に皺を寄せ、俺を心底軽蔑するような色の目をした。
それは俺が女をくっついていることに?それとも、俺がくだらないことに?
どっちでもよかった。俺はへいへい、と薄っぺらい返事を返しながら、冷たい階段から腰を上げた。俺の体に絡まっていた女の柔らかい腕が、息を無くした触手のようにスルスルと抜けていく。最後の力で女の手は俺の人差し指捕まえ、さながらイケナイことをしているかのような形となった。そんなのは御免だ。

「じゃあな、」

その即席に捕まえられた人差し指を抜き去ると、その指で口元の煙草を掴み、壁に押し付けて火を消した。
女は後ろの方で、ぶつぶつと低い声色を出していたが、気にしなかった。とりあえず、無理矢理俺のケータイに入れられた、あの女のメモリーを消すことにしよう。

「いーすっね、ヤリチンは。女食い放題で」
「そうでもねーよ、ばーか」

俺達ってのは、いつも裏切られて、その度に舌打ちを打っている。
この生きにくい世界で、俺はいつも肺にニコチンを入れて、呼吸をしている。


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