melancholy 10s
□@
1ページ/1ページ
いつかこの時間を後悔するなら今を一生懸命生きてみようかと思ったけれどもやっぱり面倒だった
ケータイが煩い。半ば夢心地でケータイを手にとると、決定ボタンを押した。好きな曲を目覚ましとして使っていたはずなのに、今となっては鬱陶しい機械音としか思えない。不思議だな。もう一度瞼を閉じようとするが、痛いほど眩しい光が窓全面に映っていたために、私の安らかな眠りは強制終了させられた。しまった、カーテンを閉め忘れた。二度寝をするにも、この中で眠るのは気が引けたので、しょうがなく体を起こすことにした。こうしていつもより早い朝は始まったのである。
洗面台の鏡をかち割りたい衝動を押さえながら、私は髪をとかした。人工的なその真っ直ぐな髪は、痛んでうっすら茶色いになっている。これでまた生徒指導の奴に何か言われるんだろうなあ、なんてぼんやり思った。染めてはいないことを信じてもらえないと嘆いたり、気を立てたりする必要は毛ほどにもない。朝しか会わない奴との間に信頼関係があったりなんかしたら、そりゃ奇跡だろう。私は神か?あほか。
それから適当に化粧をして、適当に制服に腕を通して、適当に荷物を積めて家を出た。手には寒天ゼリー、私の朝御飯。ゼリーのパックを握り締め、ちゅうと吸いながら通学路を歩いていると、目の前の曲がり角から、真黒な男が表れた。口には煙草。
「おう」
「おはよう土方」
低血圧の土方はあまり焦点の合っていない目を糸のように細めた。どうやら朝日が嫌に眩しいらしい。同感だ。どうせ目的地は一緒だから、そのまま並んで歩く。土方は朝からスパスパ煙草を吸っていて不健康極まりない。私は気づかれないくらいに嫌な顔をすると、残りのゼリーを一気に吸い上げた。
「なんでこんな時間にここにいるの?」
「その言葉そのまま返す。今は俺の登校時間だ」
「あ、私今日早く起きたんだった」
土方はめずらしいこともあるもんだな、と煙を吐いた。自分でもそう思うよ。遅刻とは私の人生だ。
学校が近付いて来ると、私は少しずつ足を早めた。土方が不機嫌な声でおい、と呼んだので、一旦足を止めて、くるりと斜め後ろを振り替えった。
「先行くよ」
「なんでだよ」
「一緒に登校してる所見られたら、土方ファンの目の敵にされるからね」
私がそう端的に言うと、土方はハッと馬鹿にしたような笑いかたをした。
「お前がんなこと気にするようなたまかよ」
「オイオイ私だって人間ですよ」
酷く臆病なね。しかしそれはどうでもいい。他人の、私に対する印象はその人の自由だ。私は神か、あほか。後ろで声を殺して笑う土方を無視して、私は歩き始めた。短くなった煙草の落ちる音が聞こえた気がした。