メリーバッドエンド

□視える世界
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俺が緊急オペして、無事にガラスを綺麗に取り出す。
包帯を巻いた後、保存用の瓶にちひろのガラスを入れとる途中に涙が溢れた。
あかん、あんなに深く多く刺さってたらほぼ確実に失明してもうとる。
安定剤と鎮痛剤を点滴で流しながら病室に運ぶ。
俺の顔を見て、雅治は察したように涙を流した。


「ちひろ・・・。ごめん、俺が起きて着いて行かへんかったからや・・・。」


「すまん。起きて直ぐに向かうべきじゃった。金なんて用意してんと。」


「・・・んぁ、ま、さ、はる・・・?ゆ、し?」

眠気が覚めてきたんか、ちひろはモゾモゾと体を動かして、軽く俺等の両手を握り返してくれる。


「ちひろ、痛ないか?大丈夫か?ほんまごめんな。」


「ちひろ、ちひろ、すまん・・・。ちひろの事、傷付けられるなんて・・・。」


「んー?いたく、ないよお?2人があやまる、こと、ない。あれ?なんか、周りしろいなぁ。」


「しろ、い・・・りょ、うほうか?」


「んー片目だけ?なんか?白い?」


「どっちや?」


「左がなんか、白い?」


「包帯外すで。」

震えた手で包帯を外すと、白くなった左目とまだ血が滲んどる右目。
良かった。失明しとるのは左目だけや。
せやけど、今国内ドナーなんてほぼ居らへん。
俺の病院でも待っとる患者は何十人も居る。
持ってたライトで両目を照らす。
閉じる右目と閉じへん左目。


「侑士。」


「・・・ちひろ、落ち着いて聞いてな?大丈夫やからな?左目だけ、失明してもうとる。右目も視力は落ちてると思う。」


「しつめー。うーん、そやな、右目でしか、微かに雅治と侑士の事見えへんなぁ。」


「今は微かやけど暫くしたら右目は視力少し戻ってボやけるのマシになるわ。」


「そかそか。桜は?痛くて見てなかったんやけど、大丈夫やったんかな?」


「大丈夫ぜよ。ちゃんと助けた。安心し。」


「えへへ、良かったぁ。着いて行った甲斐があったなぁ!助かってよかった!」


「あほがぁ。ちひろ、失明してんぞ!今、角膜ドナーなんて、国内に居らへん。」


「別にええやん。右目は見えるんやろ??」


「両目で俺等の事見て欲しい。外国行ったらドナーも多いねん。外国で早めに募集しよか。何億かかるか分からへんけど。」


「えーやん、見えるんやから!ドナー待ってる人いっぱい居るんやろ?あたしだけ片目だけでそんなん出来へんよ。」


「侑士、さっきの奴らの目玉ムカつくけど取れんか?」


「無理や。死亡してる時はもう角膜も死んでもうとるから、脳死、心肺停止の時しか無理やねん。」


「侑士。俺の左目、ちひろにあげて欲しい。」

いつの間にか、病室あけてちいが立ってた。
連絡はしたんやけど、こっち方面に居ったんやな。


「千里?!何ゆーてんの!脳死か心肺停止やないと無理やって言うたやろ!死んでまう!あたしは右目見えるからええの!3人があたしの目になってくれたらええやんか!」


「・・・・・・ちひろ。ほんまはあかんねんけどな、多目に麻酔したりしたら心肺停止すんねん。そのまま目を覚まさん時もある。けど、やってみる価値はある。視力悪くなったちひろの目には勿論なるよ。」


「あかん!!嫌や!ただでさえ千里両目そんなに視力良くないのに、余計見えへんくなるし!」


「ちひろ。俺のお願いたい。左目、貰って。俺はもう片目で生きとるようなもんたい、今更義眼になっても構わんけん。」

ちいが病室を閉めてから、土下座して泣きながら頼み込んでる。
考えてる事は同じや。
ちひろの両目で俺等の事見て欲しいって。


「俺からも頼む。もしも、ちいが死んでも俺と侑士が居る。お願いじゃ。ちひろの目が見えんなんて、ほんに我慢出来ん。」


「俺はちいを死なせへん。から、お願いや。」


「さ、3人して泣きながら土下座して・・・。もぉ。・・・分かった。移植手術、受ける。でも、失敗したら、・・・皆で死のうな?」


「「「分かった。」」」


「約束な。」


「せやけど、大丈夫。俺が死なせへん。俺がオペするんや。周りの医師も俺の事理解しとる部下に頼む。一応2週間後にする予定にしとくから、それまで2人は点眼薬しといてな。」


「りょーかい。日にちとか言うてくれたら学校休むけん。」


「ぐすっ・・・でも、千里左目無くなるんやろ・・・あたしの為に・・・。」


「0.8くらいしかないけん、今までとは全く違う世界に見えるから眼鏡いるかもせんたいね。何を泣いとる。俺は幸せとよ。俺の身体の一部がちひろの身体の一部になる。寧ろ、視力悪い目ですまん。」


「眼鏡かぁ。キスする時に邪魔やし掛けさせたくない。0.8でも俺等の顔は近付いたら普通に見えるから眼鏡はかけさせへんで。」


「寧ろ、見えん事が多くなるきに、俺達が居らんともっと生きていけんようになるぜよ。不謹慎じゃけど、嬉しいナリ。」


「雅治の瞳でも良かったけど、雅治は視力ええから、チンパになったら目眩とかすんねん。右目も1くらいになっとると思うわ。」


「ちひろ、生きててくれててありがとう。これからも俺等のために生きて。」

ちいが立ち上がってちひろをぎゅっと抱き締める。
俺も雅治も立ち上がって軽くちひろを抱きしめる。
脳までガラス達してたら後遺症残ってまうからな。
生きてくれてて、ほんまありがとう。
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