メリーバッドエンド

□恐ろしい夜。
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瞼を閉じながら、腕を左右に動かす。
あれ?毎日感じる感触が何も無い。
不思議に思って瞼を開ける。


「・・・雅治?侑士?」

部屋のどこにも居らへん。
一階かな?
家中何処探しても見当たらん。
おかしい。
あたしが起きるまでトイレ以外は行ったことないのに。


「なんかあったんかな・・・雅治に電話してみよ。」

携帯を手に取って耳に当てると、あたし専用の着信音が部屋の中から流れた。
え・・・携帯も置いていってる。
侑士に電話しても同じ。
着信音が部屋から鳴る。
二人の身になんかあったんちゃうやろか、急に不安が押寄せる。


「ど、どうしよう!あ!千里に電話してみよう!」

数コールの後、眠そうな声の千里が出る。


【こんな夜にどうしたっちゃね。】
「雅治と侑士が居らんの!どないしよ!」
【落ち着き。家の何処にも居らんと?】
「うん。携帯も置いていってるねん!なんかあったんちゃうやろか!」
【携帯まで・・・それは変やね。あの二人がちひろを置いて何処か行くとは思えんし。】
「そっち行ってたりしてないよな?」
【来てないとよ。】
「どないしよ!どないしよ!け、警察?」
【落ち着き。雅治と侑士のこつたい。理由も無く居なくなるわけなかとよ。】
「せやけど!こんな事今まで無かった!」
【そうたいね・・・。とりあえず俺も色々聞いてみるたい、ちひろも周りに聞いてみ。警察にはそれからでも遅くないとよ。】
「・・・わかった。また連絡ちょーだい。」

通話を切る。
とりあえず顔の広い景ちゃんに電話してみよう、とアドレス帳を見てると家のチャイムが数回鳴る。


「もう、0時過ぎてんのに・・・こんな時間に誰・・・?もしかして!帰ってきたんかな?!」

急いで玄関へ向かって、ドアスコープを覗くと、予想外の人物が一人で立ってた。
警官!
やっぱりなんかあったんや!
直ぐにドアを開ける。


「夜分遅くにすみません。ここら辺で危険なドラッグを売買しているという通報を受けまして、ただいま見回っております。先程、一人同行して頂いたばかりです。」


「ど、らっぐ・・・。」

警官帽子を深く被った警官の後ろには、豪華な真っ赤な着物を着た女の人が出て来る。
真っ黒な髪の毛に、整えられた兵庫髷に何本か簪が刺さってる。
俯いた花魁さんの手には手錠が掛かってた。


「はい。使用すると終身刑です。」


「しゅ、終身刑?!そ、そんなドラッグなんて知りません!」


「そうですか?こちらのお宅に所持しているとの通報があったのですが・・・こちら、逮捕状です。」

警官がポケットから何かを書いた紙を出す。
一気に血の気が引く。
確かに、怪しい二人やけどそんな危険なもんには手ぇ出てない!雅治は侑士が処方した薬しか飲まへんし!


「な、何かの手違いだと思います!」


「そうですか?貴方もよくご存知なお名前のドラッグなのですが・・・。」


「えっ・・・?!」


「・・・・・・・・・そのドラッグの名は、」
「「ちひろ」」


「・・・・・・・・・・・・・・・はい?」


「やから、そのdrugの名前はちひろやって、言うとるやんけ。」


「ピヨッ!ハマったら終身刑じゃき。残念。わっちらはもう既に使用済み。」

顔をあげた二人の顔には死ぬ程見覚えがあった。
侑士は深く被ってた帽子をあげて、目を見開いてニヒルに笑う。
雅治は瞼を閉じて、唇を歪ませる。


「「trick or treat!」」

ハロウィン。
思い出すと、ぶわっと涙が零れた。
二人に飛び付いた。
少しよろけた二人やけど、直ぐに抱き締めてくれる。


「な、なんかあったとおもたやんかぁ!あほぅ!」


「すまんすまん。久々にちひろの驚いた顔とか、歪んだ顔見たいと思ってな。」


「寒いから中入ろや。」


「プピナッチョ。」

いつの間にか外れてた手錠。
あいた左手で、腕を引かれて家に戻る。


「ほんま、意地悪いわ、二人共。めっちゃ心配したわ。」


「心配?自分の心配した方がええんとちゃう?」


「え?なんで?」


「ピヨッ。いじめられたくなかったら、お菓子くんしゃい。」


「ハロウィンかっ!そんなん、お菓子なんてあったかな・・・。」


「全部棄てたからこの家には無いぜよ?」


「なっ・・・!」


「はーい。悪戯決定でーす。」


「初めからそのつもりやったな!このサディスト達!」


「プピナッチョ。当たり前じゃろ。そうじゃなかったらこんな格好するわけなか。」


「・・・・・・雅治、お化粧して、めっちゃ綺麗やな・・・あたしが男やったら一瞬でおちてるわ。」


「プリッ。ここに来るまでに散々ナンパされた。キモすぎて三回吐いた。ったく、侑士が無理矢理着せたんやけん。俺は吸血鬼とか死神が良かったきに。」

溜息すら色っぽい。
仕草一つ一つ、目が離せんくなる。
視線に気付いたんか雅治と目が合うとにっこりと微笑まれる。


「さて、ちゅーことで、ちひろの事逮捕させていただきます。」


「わっちも、精一杯御奉仕するでありんす。」

二人に見とれてると、両手に手錠をかけられる。
侑士に横抱きにされて、二階へと向かう。
ポーカーフェイスの裏側でも、いけない欲望渦巻いてそう。
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