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□真っ赤な2つの林檎
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野球バカはオレのことが好き。


『獄寺、好きだ…っ』

告白されたのは3日前。
誰もいない教室で、顔を真っ赤にした山本が、苦しそうに言った。

ケンカ売られたんだと思って、胸ぐらを掴んだら、キスされて。

思考は一時停止。


『ごめん。
こういう"好き"なんだ。』



ふざけてない、嘘でもない。

泣きそうな顔をして、ぎゅっとオレを抱きしめた山本は、まるで子供のようだった。

そんな珍しく余裕のない山本の背中に、オレはそっと腕をまわした。

一瞬びくっとした山本の体。

けど、すぐに笑顔をつくって、またオレに幼い愛の言葉を送った。





― 真っ赤な2つの林檎 ―…




今日。
あれからそんなに進歩していないオレ達の関係。

変わったのはお互いの間に流れる空気くらい。



「なー獄寺?」
「んー?」


休み時間、窓際に寄りかかったオレに山本が近づいてきた。
窓は開いていて、心地よい風が教室に流れ込む。

その度にカーテンはヒラヒラと波打って、オレに教室を隠してみせた。



「キス、したい」
「はぁっ!?」

「あー!冗談冗談!ごめん!」


照れ笑いした野球バカをオレはどう思ったのか。


「したいなら、すれば?」


まさかしないだろう。
そんな気持ちでそう言ってみせた。

あとから、そんな言葉を山本に言ってしまったことに恥ずかしさを感じたが、構わず意地悪げに笑ってみたら、山本の顔はまた真っ赤になった。
3日前の告白のときみたいに、林檎みたいに。


「こ、ここで!?」

ざわざわ。
みんながいる教室で。

「嫌だったらしなければいい話だろ」


ああ恥ずかしい。
なんてことを言っているんだ、オレは。


オレも、お前とキスしたいと言っているようなもんじゃないか。


(きっと、そう、なんだけど)



山本との距離は、どんどん狭くなっていって、


風が吹いた。


カーテンが舞って、目の前が山本と、カーテンの白しかなくなって、


ちゅ、


柔らかい感触。





風が止むと視界は元通り。

ざわざわと雑談するクラスメートと目の前には林檎みたいな山本。


「な、獄寺」

「あ、あ?」




「この前、言いそびれたんだけどな。聞いてくれる?」

「おう、な、なんだよ」


林檎な山本。
けど真剣な山本。




「オレと、付き合ってほしい」



山本しか見えなくなって、きっとオレも林檎みたいに真っ赤になっているんだとわかって、泣きそうなくらい、苦しくなって。

今のオレは、3日前の山本みたいだと思って。


オレも、お前のことが好きなんだと。


わかって。



思いがけないキスでマヒした体を無理矢理動かして、山本の言葉に、オレは頷いてみせた。



そしたら山本は、笑った。
オレは泣きたかった。



「獄寺林檎みたいに真っ赤なのなーっ」
「…っ!うるせー!お前のほうこそ林檎みたいに真っ赤だろ!」
「あはは!獄寺のほっぺた熱いー」
「てめーのだって熱い…」


山本の手が、オレの頬に。
オレの手は、山本の頬に。


林檎の赤をそっと包んだ。



2つの林檎の赤は"好き"の赤。

能天気で単純バカなこいつによって熟してしまった熱い真っ赤な林檎は、きっと、山本だけのものだから。

山本の真っ赤な林檎もオレだけのものだから。


熱を帯びた頬を、互いの手で触れて熱を奪って下さい。


そうやって、

好きという言葉や思いを


交換するんだ、オレたちは。

(これから先も、ずっとずっと)


fin.

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