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□夢
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「ご〜く〜で〜らぁ〜っ!!」
オレの部屋に山本の声が響いた。
「オレ、来週部活の合宿があるんだ……」
そう言って山本はオレに抱きついてきた。
「だからなんだってんだ!」
いつもの反射で山本を引き離そうとする。
合宿があったって、こいつにとっちゃ珍しいことでもない。
合宿中は会えなから、なんか…うざいやつが居なくてちっと寂しいな、なんて思ったときもあったけど2、3日すりゃ嫌でもこいつが合宿の帰りにオレの家にやって来るから、
そんなに苦じゃなかった。
「合宿…7泊8日あるんだ」
それがてめぇがいつも以上に抱きついてくる理由か。
山本はオレの肩に額をついて小さく呟く。
「獄寺不足で死ぬよ、オレ」
「はっ、勝手に死んぢまえ!!こっちはてめぇの顔が見れなくて清々するぜ!!」
鼻で笑い飛ばし、嘘をつく。
ここでオレが寂しいとか口に出したら合宿に行かせづらくなる。
つっても、素直な気持ちを山本に言うことなんてめったにないけどな。
おまえには野球…頑張ってほしいから、な。
じゃないとおまえのこと、野球バカって呼べなくなるだろ…
抱きつき、キスを求めてくる恋人にオレは珍しくキスで答えてやった。
**夢**
『今から獄寺ん家いくな』
メールをもらって間もなく、走り音はオレの住むマンションルームのドアまで聞こえてきた。
玄関先で野球バカを待ってるオレもそうとうバカだと思ったが、何もしないで待ってるってのが出来なかったんだ。
いつもオレの名前を呼ぶうるせぇ声も、人目も気にせずおかまいなしに抱きついてくる山本の温もりも、その口から発せられる『好きだ』って言葉も……
8日間、なかったからな。
調子……狂う…。
ドアを開けるなり俺がそこにいたもんだから、山本は一瞬、驚いた顔をした。
驚いたか、ざまぁみろ!!
心の中で山本に言う。
「獄寺っ」
いつの間にかオレは山本の腕の中にいて、
「っ!!やまっ!?」
唇を塞がれていた。
そのまま玄関先の廊下に押し倒される。
山本の唇はオレの唇を離れ、今度は額や頬にキスしてきた。
「どっ、どけ野球バカ!!」
オレの言葉になんて気にも止めていない様子…。
キスはオレの首筋へと移る。
「…っ」
「獄寺っ」
「は…」
「好きだ」
こんな時、山本みたいに『好きだ』って気持ちを素直に言えない自分にムカついてしまう。
オレだっておまえのこと…好きだ。
好きだ。
お前がいなくて…正直寂しかった。
気づいたら山本のこと考えてたりしてた。
変なプライドが、言葉が口に出る一歩手前でせき止めてしまう。
「てめぇ、しつけぇぞ!!」
思わず山本を引き離してしまった。