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□高杉の代わり(2)
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西郷は店のホステス(?)たちが働き始めたのを見届けると、くるりと桂に向き合った。
「お店に来て、少しは私たちの気高さを思い出したかしら?」
「はぁ……まぁ」
「何よぉ、全然分かってないんじゃないの?」
西郷の顔が度アップで迫ってきた。迫力のある顔を近づけられて思わず少し引いてしまう。
「ところで」
西郷はふいに桂を覗き込んでいた顔を元の位置に引き戻し、真顔になった。桂はほっと胸を撫で下ろした。
「あんた、なんでまたあんなところにボーッと突っ立ってたのよ?」
じっと桂の目を見据えて、聞いてくる。
その真剣な眼差しに、一瞬ドキッとさせられる。
「まぁ、悩みぐらいは聞いてやるわよ?」
店のホステスの一人が西郷の名前を呼んだ(ホステスは「ママー」と呼んだ)。
どうやら、なにか問題があったらしい。
ホステスの困ったような声が地声に戻っている。
西郷はニッと男らしく笑って見せてから、桂のもとを去っていった。
桂はカマッ娘倶楽部の人々が嫌いではない。
西郷には攘夷志士の先輩ということもあって、尊敬の念を抱いている。
そして、ここにいる人々は皆、世間では変わり者扱いされているが、親切でいい人だ。
彼らに接してみて、始めて分かったことだった。
外見で人を判断してはいけない、というのはこういうことなのだろう。
桂はカマッ娘倶楽部の皆が好きだった。
彼ら、じゃなかった、彼女らの「女よりも気高く、男よりもたくましく」という精神がなにより気に入っていた。
「そうだ、思い切って西郷どのにでも頼んでみるか」
女物の着物を着ているところなんか、高杉に似ているし、彼の代わりにぴったりかも知れない。
それに、彼、じゃなかった、彼女なら高杉に勝てそうな気がする。
いや、絶対勝てる。
「いや」
桂は首を横にふった。
もしも西郷どのを連れて行ったら……。
『ヅラァ、お前、カマが趣味だったのかよ……』
逆に笑われる結果になってしまう……かもしれない。
「ちょっと、ヅラ子、あんた大丈夫?何ぶつぶつ言ってるのよ」
ハッとなって振り向くと、アゴ美が化粧をぬりたくった、いかつい顔をしかめていた。
つまりは心配そうな顔だ。
「アゴ美どの、俺は大丈夫だが?」
顔をしかめて首をかしげる。
「やだぁ、ヅラ子ったら、ホント大丈夫?私はアズミよ、ア・ズ・ミ!もうずいぶん長い付き合いになるんだし、ちゃんと覚えてよね」
笑って流しつつも、アゴ美の額には怒りのマークがきっちりと刻み込まれていた。
しかし桂は気にとめる様子もなく、顔にかかった髪を耳にかける。
そのさまがなんとも色っぽい。
たちまちその場にいた男どもの目が彼に釘付けになる。彼・・・いや、彼女を除いて。
「……ちょっと、ヅラ子」