銀魂

□夢見る少女
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夢があります。

それはささやかで平凡な夢ですが、子供のころからの大切な夢です。





その夢が、目の前の男によって壊されようとしている。










「また、あなたですか」



そう言って嫌味たっぷりなため息を、編笠を深くかぶっている目の前の男におくれば、にやりと不敵な笑みを浮かべていた。

最近、毎日といっていいほど私のまえあらわれるこの男。




「今日も暇そうにしてんじゃねぇか」

「毎日毎日、嫌いなくせに甘味屋に通ってるあなたに言われたくありませんよ」



店員の私以外いない店内を見渡すと、ククッと喉を鳴らしながら笑い男は被っていた編笠を脱ぎ椅子に座る。
お店の入口から数えて3番目のテーブル席、いつもそこに座っている。




「ご注文は何にされますか?」



一応客なので注文をとりながらお冷やをだす。
ドンッ、と勢いがつきつすぎてコップから水が少し零れてしまったのは気にしない。


「もっと、しとやかに出せねぇのか?」

「あなた以外のお客さんにはきちんと出してますから」

「俺以外に客がいたとこなんて、見たことねぇけどな」

「うるさいですよっ、さっさと注文決めてください!!」



私だって、普通のお客さんならきちんと接客もする。
数少ない常連客は大切にしたいから。

だけど、残念ながらこの常連客は普通のお客さんではないのだ。
彼の言動は、あきらかに迷惑なお客そのものだった。



「注文はおめぇだ。おめぇを貰いにきた」



普通のお客さんは、まずこんな事は言わない。
まだ、スマイルくださいの方がましな気がする。



「………ご注文は、いつものところてんでよろしいですね」

「何だよ、無視かよ」


えぇ、無視ですよ。
そんなの無視に決まってるじゃないですか。

甘いものが嫌いなくせに、毎日甘味処に通い続け飽きもせずに、私を注文してみたり一緒に来いだのなんだの言ってみたり。
あげくのはてに、「俺が永久就職させてやらぁ」などと、笑えない冗談を言ってみたり。

本気なのか冗談なのかわからないけれど、たぶん後者に違いないと思う。




「そろそろ、はいって言えや。俺も暇人じゃねぇんだからよ」

「知らない人にはついて行くなと母から言われてるので」

「知らなくねぇだろ。毎日、会ってんじゃねぇかよ」

「私、あなたの名前知らないです。だから知らない人」




甘い物がが嫌いで、注文はいつもところてん。
考えてみれば、それくらいしか私は知らないのだ。

目の前の男について。







「高杉だ」




最初、なにを話しているのかわからなかった。
むしろ、聞き取れなかったの方が正しい。




「高杉晋助」




だから、ようやく理解できたのは迷惑なその常連客に手を引かれながら店をでたあとだった。





「おら、名前教えたんだ。これで知り合いだろ?」

「はぁ!?意味わかんないし!!」

「だから、一緒に来い」

「もっと意味わかんないし!!!」



叫んでみたところで、にやりと笑みをうかべるだけで、今の状況が変わることもなく…。

ただひとつわかったことは、迷惑なその常連客は「高杉晋助」という名前らしいということだけ。





「責任はとってやらぁ、安心しろ」





私に、どう安心しろと?
そもそも何の安心?




どちらにせよ、私には子供のころからの夢があって

この男について行ってしまったら、その夢が叶わなくなってしまう事だけは確かだ


と、その時の私は思っていた。






夢見る少女の見る夢は?





 

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