◆平行世界◆
□41号
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父さんが、仕事中に事故に遭った。
…そう学校に連絡が来たのはたしか5時限目も終わろうとしていた時だった。
何だか眠いな〜…と思ってたら、急に背筋がぞっとして、その悪寒の意味を考えていたら先生に呼び出されたのだ。
先に連れてこられて呆然としているなるとの手を引いて、すぐに病院へ走った。
怖かった。
父さんが死んだらどうしようって。
俺達二人だけになってしまうって。
ただ、ただ、怖かった。
なるとはずっと泣いてて、手が緊張で冷え切ってた。
だから、俺がしっかりしなきゃ駄目だと思った。怖くても泣かない。なるとを支えてやらないといけない、と自分に言い聞かせた。
病院で父さんの名前を言って、通された先はシンと静かだった。
もう処置は終わってた。
というよりも、顔に白い布がかけられてた。
それの意味するところは、つまり…
隣で、なるとが何かを叫びながら泣き崩れる。
俺もぐらつく身体を壁で支えるようにして、何とか立っているような状態だった。
医者が何かを言ったけど、耳には入ってこない。
ただ、その時の俺達には、父さんの死だけが全てだった。
その後、夜になって父さんの姉である綱手さんがやってきてからは、とんとん拍子に事は進んでいった。
一応、俺が喪主という事になっていたけど、大体取り仕切ってくれたのは綱手さんだった。実際には、俺は補佐ぐらいにしかなってなかったと思う。
とにかく言われた事をしっかりやらなきゃって必死だった。
なるとが泣いてるのは分かってたけど、相手をしている余裕なんてなくて、父さんの弟のゲンマさんがなるとの相手してくれてるのを良い事にほったらかしてた。
俺がしっかりしなきゃ。
俺がなるとを守らなきゃ。
俺が、俺が、と思いながら、その実ナルトをほったらかしてたんだから話にならない。
そんな事にも気付かないくらいに、オレはテンパってたのだ。
やっと色々終わった頃にはなるとは泣き疲れて眠ってしまって、ゲンマさんもなるとの相手に疲れたのか居間でいびきをかいてた。綱手さんは色々後片付けをしてる。
俺は一人手持ち無沙汰で、縁側からぼんやりと庭を眺めてた。
父さんが庭いじりするのを、よくここから眺めてた。熱中したら途中でやめられない人で、暗くなるまで泥だらけになってやってた。
庭木の水遣りも父さんがやってたし、そこの物干し台に服を干す役も父さんだった。
ここから見える景色は全てが父さんを連想させる。
あの日まで、ここにいたのに。
間違いなくここにいたのをオレは見たのに…。
なかなか起きないなるとを起こすのが日課で、
起きたなるとがご飯よそってくれるとすごく喜んで、
俺が作った弁当を抱えて『行ってきます』って仕事に出て行く。
それが当たり前の風景だった。
なのに、もう帰ってこない。だから朝が来てもあの風景が見れない。
声が聞けない、触れられない、撫でてもらえない、…もうあの笑顔が見れない。
あんな小さな骨になってしまったんだって、思い知らされた。
そう思ったら、涙が出てきた。
さっきまで我慢してたのに、ぽろぽろ、ぽろぽろ…零れ出したら止まらない。
拭っても、拭っても、次から次にあふれ出してしまう。
誰にも見られていないという安心感が、俺の涙腺をますます緩くする。
なるとにも、綱手さんやゲンマさんにも泣いてるところを見られたくなかった。いつもなるとに対して兄貴ぶってる意地と、俺の事は心配いらないと綱手さんたちに示したい見栄だった。
だから、誰もいなくて一人になったら…涙が出た。
俺だって辛いし、悲しい。
だけど俺は兄貴で、長男で、泣いてる場合じゃないから…
「泣いてる…の?」
不意に、庭の方から声がした。
驚いて顔を上げると、月明かりに照らされて銀色が輝いてた。
知らない人だった。顔はすごく整ってて綺麗で、左目の上に傷があるけど、それすらかっこいい…そんな人だった。