◆平行世界◆

□突発
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『ボタンの行方』




卒業式の後、カカシが食事につれて行ってくれると言うので、俺は待ち合わせの場所に向かっていた。

たぶんカカシは車で来るだろうし、卒業証書をはじめとして割と荷物は多めだ。このまま行っても良いけれど、一度家に帰ってもらおうかな…と思っていたら、ちょうど目の前にその車が止まった。

「お待たせ」

そう言ってにこやかに降りてきた男、はたけカカシ。

この俺、うずまきナルトの……こ、恋人…?…なんて、言うのも憚られるけど、それっぽい奴だ。

お互い好きだって、一応確認もしたし。

恋人っぽくスキンシップを図る事もあるわけだし。まぁ、転校初日に唇を奪われた俺だから言わせて貰うけど、今はちゃんとしたいと思ってしてる…。

だからやっぱり恋人?

それにしても、今日のカカシはいつにも増して良い服を着ているようだ。学校で見てきた野暮ったい服が嘘みたいに、きっちりとブランド物を着こなしている。

しかもその理由が、

『自分を良く見せたいから』

じゃなくて、

『一緒にいるナルトに恥をかかせない為』

って言うんだから驚きだ。

愛されてるな〜…、って思うよりも、俺の方が明らかに安い服着てるだろ…とか、むしろ俺の方がカカシに恥かかせてるっぽくないか…とか、思うところは色々ある。

色々あるけれど、カカシには言わない。

言ったって通じないと既に身を持って思い知らされている。

俺ってばなんでコイツが好きなんだろうって思うこともあるけど、やっぱり好きに理由はなくて、好きなものは好きだからしょうがなくて。

カカシは満面の笑みで俺に近づいてくる。

でも、一歩、また一歩と進むうちに、その笑顔が段々と曇るのが分かった。

異変に気付いても、何の心当たりもない俺としては首をかしげるしかない。何か俺がいつもと違うところでもあるのだろうか?

いつもと違うところなんて、荷物が多い事ぐらいしか…

「ぼ…」

ぼ?…と聞き返そうとしたら、ガシッと肩を掴まれて必死な形相で覗き込まれた。

「ボタンがない!!」

言われて、ああ、と思い出した。

確かに今の俺は、いつもと違って、学ランのボタンが一つもなくて前は開襟シャツが見えているような状態だった。

「欲しいって言われたから、やったけど?」

そこに恋心が在ろうと無かろうと、思い出に欲しいと言われたのをわざわざ断るのもどうかと思ったのだ。

俺自身はカカシのもの……って事になるわけだし、せめてそれくらい、と思わなかったわけじゃない。同情だって言われても仕方ないけど。

「だ、誰にあげ…た……?」

まさか行って奪ってくる気じゃないだろうな、と思ったけれど、ここで答えなかったらカカシの機嫌が悪くなるしと素直に答える。

いや、本当に行きかねない奴なんだよ、この男…。

「ヒナタと、名前は知らない下級生と、あとはサスケとシカマルが記念に交換しようって言ったから…」

「残ってないの??」

「ま、見ての通り?」

カカシはがっくりとうな垂れると、力なく俺を抱きしめた。

「何だよ、ボタン、欲しいなんて言わなかったくせに…」

「そりゃ言わなかったけど、きっとくれる筈だって期待してたのに…」

期待って、この男は本当に…

俺は、はぁ…と溜め息をつくと辺りに誰もいないのを確認してカカシの背に手を回した。

カカシは少しだけ笑ったけど、やっぱりショックは隠しきれないらしく、最初の満面の笑みほどの元気はない。



大体この男は何でも自分の思い通りになると思いすぎだと思う。

俺が大学部に進むって言った時だって、俺が文系にいるって知ってるし、部活だって文芸部、そもそも一言だってそんな事は言ってないのに、俺が父さんの研究を受け継ぐんだと思い込んでたし。

文系からいきなり転向してやれるほど簡単な研究じゃないって事も知ってるくせに、だ。

そりゃ、そうしたらカカシだけじゃなくて、死んだ父さんだって喜ぶかもしれないって思った。だけど、関心はあっても、熱心に研究するほどの気持ちはわかないのだ。

無理してやったところで結果は出ないし、父さんも喜ばない。

だから、俺はやらない。

そう…説得するのにどれ位かかったか、もう、思い出したくない…



「ちなみに、学ラン自体は木ノ葉丸におさがりでやるからさ。本当に何にも残んないんだ」

言うと、カカシは案の定またしてもショックを受けたような顔をした。

やっぱり、ボタンが駄目なら制服…と思っていたか。

そのうち鞄や靴なんて言い出したらどうしよう。

「それでさ、ポケットとか何か入れっぱなしにしてたらいけないから、確認しといてよ」

「へ?」

「あ、あとでな」

カカシは何を言われたのか良く分からないって顔してた。

俺も自分で、何言ってるんだろうなって思う。

馬鹿だよなって思う。


だけど、やっぱり俺としても一応カカシに…って思わなくも無かったわけで。





胸ポケットに忍ばせた最後の一つ。

誰にも渡さなかった第二ボタン。

ちゃんと、見つけろよな。

++++++++++

08.03.05

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