◆平行世界◆
□突発
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『本音?』
「たっだいま〜〜」
玄関の開く音と一緒に、何だか聞きなれない陽気なテンションの声が家に響いた。
まだナルトも綱手さんも帰ってくる時間じゃない。
もちろん声を聞けば誰かなんてすぐに分かってる。
だけど、いつもとあまりにも違うからちょっと驚いたんだってばよ。普段だって機嫌の良い時はあるけど、今日のはそれともちょっと違うっていうか。
そもそも酔ったゲンマさんって見たことないんだし。
待ってる間にそれってどんなかなって想像は色々してた。泣き上戸とか、笑い上戸とか、絡み酒とか、聞いた事あるそれっぽい単語で色々考えてたんだ。
だけど、やっぱり目の前で見るのと想像とは全然違うってばよ。
こんな風になるんだ〜なんて感心するよりも、まず純粋に、その変貌振りに驚かされてしまった。
「良い子にしてたか、なると?」
近年まれに見る満面の笑みなんだってばよ。
そんなに飲み会が楽しかったのかなって思うと、チクリと胸が痛んだけど、でも今はちゃんと側に居てくれるんだから良いんだ。
変に拗ねるより、仲良く楽しくが良いってばよ。
「オレはいつだって良い子だってばよ!」
もう、なんて言いながらそのまま玄関に座り込みそうなゲンマさんを何とか支えて居間に進む。
近づいた途端にふわりと香ったお酒の匂いにドキリとした。酔ってるからだろうけど、身体もちょっといつもより暖かい。
そう思ったら急に心臓が跳ねた。
いつもと違うんだって実感したっていうか、とにかくよく分かんないけどいきなりドキドキしてきたんだってばよ。
ゲンマさんの温度につられてオレの体温まで上がった気がする。
何だか顔が熱い。
きっと顔は真っ赤になってるんじゃないだろうか。
そう思ったら今度は恥ずかしくなってきて、酔ったゲンマさんはオレの顔なんて気にもしないだろうってお思いながらも、ついつい俯いてしまう。
「どうした?なると?」
「な、な、何でもないってばよっ!」
すぐ変化に気付かれてますます焦る。
酔ってるくせにそんな所は普段と一緒なんて狡い!なんて、理不尽な事を考えながらオレは、やっぱり俯くしかない。
こんな真っ赤な顔を見られたら、きっと気持ちがばれてしまう。
ゲンマさんは「そうか?」なんて不思議がりながらも、それ以上の追及はしなかった。酔っててもそういう所はちゃんとゲンマさんだった。
ホント、ずるい…
「お前、きっと良いお嫁さんになるよ」
いきなりゲンマさんがそんな事を言い出した。
最初は純粋に誰の?って思った。だってオレってばゲンマさんのお嫁さんになりたいのに。
だけど、この言い方って…
「いつかお前を送り出す日が来ると思うと淋しいなぁ〜」
「オレってば、この家出て行ったりしないってば!」
そんな日、来るわけない。
オレは絶対にずっとゲンマさんしか好きにならない。ゲンマさんだけだって、決めてるんだってばよ。
そりゃゲンマさんに気持ちを言ってないんだから、分かってもらえなくて当然だけど。
だけど、さっきみたいな事言われるのは嬉しくない。
「そっか、お前はずっといるのか」
ゲンマさんがフッと笑った気がした。
「ずっと居ろよ。その方がオレもうれし……」
と同時に目の前が真っ暗になって、ギュッと圧迫する暖かい感触が身体を包んだ。
鼻をつく酒の匂い。
耳にかかる熱い息。
抱きしめられたんだ、ゲンマさんに…
って気付いたのは、随分経ってからだった。
「ゲンマ、さん?」
読んでもゲンマさんは返事しない。こんな風にきつく抱きしめられたのなんて初めてで、オレってば抜け出したほうが良いのか、このまま身を任せてて良いのかも分かんない。
そりゃ抱きしめられてるのは嬉しいけど!
それに、さっき『その方が嬉しい』って言ったんだよな??ゲンマさんもオレがこの家にいた方が良いって思ってるってことだよな?
それが聞けたのが嬉しい。
例えそれがオレに気を使っての言葉でも、酔いに任せたリップサービスでも、それでも良い。
だって、もしかしたら本音かもしれない。
オレの事少しぐらいは気にしてくれてるのかもしれない。
こうして抱きしめてくれるのも、もしかしたら……?
結局、ゲンマさんはそのまま眠ってしまったことが判明したのは、それからしばらく経っての事だった。
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08.03.23
これを書きながら、そのまま眠ってしまっていたのは私です。
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