◆平行世界◆

□突発
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とりあえず、動揺してるなんて知られたくないから極力カカシの方は向かない。

目は合わせない。

視線は顔じゃなくて、胸元、襟元、あとは手先。視線が絡みそうになったら、さり気なく(ないかもしれないけど)視線を逸らす。

正直、動揺を知られたくないだけじゃなくて目を見る勇気が出ない。

だって見たら、もっと動揺してしまいそうだ。

何だろう、これ?俺に何が起きてる?

カカシが嫌い、苦手、近寄りたくない。それは変わらない。

そりゃあ大分慣れて最初ほどの嫌悪感は湧かないけれど、近寄ったって良い気分になるわけでもない。むしろ苛立ったりする方がずっと多いと思う。

今日だってイライラしてる。

してるけど、それよりもドキドキの方がずっと強いだけで。自分の感情なのに、何が何だかサッパリ分からない。

「ナルト、ウーロン茶のおかわりくれるかい?」

天の助けのようなヤマト先生の声にすぐさまそちらへ向かう。ずっとカカシの相手ばっかりしてられるかっての。

大体、会話するわけでもないし。

声かけるのは注文する時だけだし。

いや、何か喋りたいわけじゃなくて!だってずっと黙って突っ立ってるだけなんて、居心地が悪いじゃないか。しかも、だからといって、俺の方から何か話す事なんて思いつかないし。

というか、そこまで考えるような余裕はないし。

とにかく居た堪れない気持ちでいっぱいだった。早くその場を離れたかった。

ヤマト先生にウーロン茶を渡していると、不意にテーブル席のほうからガチャンと派手にガラスの割れる音が響いた。どこかの酔っ払いがテーブルからコップを落としたらしい。

「あ〜あ、大丈夫かい?」

「俺が片付けます!」

その場を離れる良い口実が出来たと、俺はほうきとちりとりを手にすぐさま奥のテーブルに向かった。

誰にも気付かれないように、ホッと息までついたりして。

問題のテーブルの床にはなかなか盛大な水溜りが出来ていた。

とりあえず綱手さんが危ないからとそのお客を別のテーブルに移してくれたから、その間に俺は早速片付けに取り掛かる。

とりあえず大きな破片は拾って、次に水分を拭くモップを取りに行こうとしたとき足が滑った。

「え…」

濡れた所を踏んでいる自覚はあったし、用心もしてたつもりだったのに、気付いた時には俺の身体は意思とは関係なく倒れこもうとしていた。





でも、倒れる前に俺は抱きとめられた。

よりにもよって、カカシが俺を助けたのだ。

そんなに近い距離でもなかったのに、よく間に合ったな…なんて変なところで感心してしまう。

でも、さすがにそれなりの体格の俺を支えきれなかったらしく、俺を受け止めようとしたカカシごと床に倒れこんでしまった。それでも、そのまま床に倒れた時の衝撃と比べれば断然マシだ。

というよりも、俺が受けるはずだった衝撃のほとんどをカカシが受けてしまったような気がするけれど。

さすがにこの状況で顔を見ないわけにはいかない。

ドキドキしても、それはきっと倒れかけた動揺が残ってるだけで、カカシにドキドキしてるわけじゃない…なんて自分に言い聞かせる。

だいたい、これでお礼を言わない訳にもいかないじゃないか。

俺は意を決してカカシの顔を見た。

すぐ側の顔に心臓が跳ねたけれど、カカシのほうはいつもと変わらず平然とした顔だ。

別に必死の形相でいて欲しかったわけでもないけど、本当に良く間に合ったな…って思ってしまうくらいに、しれっと無表情だ。

いや、無表情はカカシにしたら機嫌の悪い時…?

だったらちょっとは焦ったということだろうか?…なんて考えた自分が、バカだと気づいたのはそのすぐ後だった。

「か、カカシ先生……ありが………って、アンタ!手!!!」

お礼を言おうとカカシを見ると、その左手からドクドクと血が流れていたのだ。

自分の顔から血の気が引くのが分かった。

どうやら倒れた時にカカシが手をついた場所に運悪くガラスの破片があったらしい。だが、当のカカシは大して気にした様子もなく、刺さった破片を自分で抜いてちりとりに投げている。

破片を抜くたびに溢れる血に俺は気が遠くなりそうだった。

どうやらカカシの無表情は機嫌が悪いんじゃないくて、痛いのを我慢してたらしい。でも、痛いなら痛いって言えば良いのに…なんて思う余裕すら俺にはなかった。

とにかく怖くて、自分の所為だって怖くて、テンパってた。

「何やってんだよ!血!止めなきゃ!」

慌てて持っていたおしぼりで傷口を押さえる。

でもおしぼりはすぐに真っ赤になって血はどんどん溢れてくる。おしぼりをもう一枚重ねるけど、また血を吸って真っ赤になる。

手が震える。

「ナルト、大丈夫だから」

カカシの傷口を抑える俺の手に、カカシの右手が重ねられる。

「泣かなくて良いよ」

いつの間にか、俺の頬は濡れていた。意識すればますます涙が溢れてくる。

カカシはそんな俺を見て優しく笑った。

いつもの意地悪な、嫌らしい笑みではなく、本当に優しげに安心させるように笑った。

「大丈夫、だよ」

言って、また笑う。

カカシは俺の手を放させると自分でおしぼりで傷口を押さえて立ち上がった。

俺はぼんやりとそれを見ながら、何だ、そんな風にも笑えるんだ…なんて的外れな事を考えていた。

→次で終わるはずです(^_^;)

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08.03.25

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