◆平行世界◆
□突発
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「大丈夫じゃない、馬鹿者!」
いつの間にか近くに来ていた綱手さんがカカシにゲンコツを落とす。身長的には落とすというよりも、ぶつけると言った方が正しいけれど。
「い、痛いですよ……」
「当たり前だ!痛いようにしてるんだからな」
例えるなら、これこそ『雷が落ちる』と言った所だろうか。
俺の父さんの教え子だったカカシなんて、綱手さんにしてみても子供みたいなものなんだろう。その向こうでそんな二人の様子をヤマト先生が笑っていた。
俺はと言えば、気が抜けたようにぼんやりと二人を見ているしか出来なくて。
「とりあえずナルトは奥でカカシの手当てをしてやれ」
「わ、分かった」
俺はさっと我に返ってカカシの腕を掴むと従業員用の奥の扉に向かう。
もちろん傷に障らないように、あんまり振動を与えないようにそっと…だ。引かれているカカシの方は全然気にしてないのか、ドスドスといつもどおりに歩いてくる。
この男は痛覚がないのだろうか…と心配になる。
あ、でもさっき綱手さんのゲンコツは痛いって言ってたか。じゃあ痛いものは痛い?
痛くても気にしないってこと?
「か、カカシ…先生。こっち」
「はい、はい、」
カカシを奥の部屋に押し込んで扉を閉めようと振り返ると、俺がそのままにしてきたテーブルの片付けを、なぜかヤマト先生がやらされていた。しかも綱手さんは完全に任せてカウンターに戻ってるし。
良いのかな、なんて思いながら見ているとヤマト先生と目が合う。
ヤマト先生は気にしなくて良いという感じで苦笑して、早く手当てしろという風に手を振った。俺は場合が場合だし、と小さくお辞儀をして扉を閉じた。
振り返ると、カカシはその場に立ったまま手持ち無沙汰に俺を見ている。
ニコニコと、優しい笑みを浮かべて。
手が痛いはずなのに笑ってるなんてマゾかよ、なんて突っ込みを入れたいところだけど、そんな訳はないだろうし。なんか、それを言い出せるような雰囲気でもない。
それに早く手当てをしないと落ち着かないし。
「とりあえず、その辺の椅子に座って。救急箱出してくるから」
「はい、はい」
カカシは俺に言われるがまま、近くの椅子を引いて腰かけた。しかも怪我した方の手で引いてるし!
無頓着って言うか、やっぱり実は痛覚ないのかも…
俺はもう怒る気にもなれなくて溜め息をつくしかない。
救急箱を持ってカカシの方へ戻れば、やっぱりカカシは笑顔だ。意地悪な笑みも居心地悪いけど、優しく笑われてもそれはそれでくすぐったいというか、やっぱり居心地悪い。
俺はカカシの手をそっと持ち上げておしぼりをとる。
消毒して、ガーゼを当てて、包帯を巻いて…ととりあえず応急処置的な事をやってみる。それが正しいかなんて分からないけど、悪化はしないだろう。
巻き終わった包帯を留めると、ふぅ、と息を吐く。
どうやらオレは無意識に、真剣になる余り息を止めていたらしい。
すると頭の上からクスクスとカカシの笑うのが分かった。俺がじろりと睨みつけてやっても、カカシは笑うのを止めない。
「何で笑ってんだよ。痛くないのかよ」
「痛いよ。痛いけど……」
言いながら、怪我をしてない方のカカシの手が俺の頬に触れる。
「やっと俺をちゃんと見た……と、思って」
は?!
…と思った瞬間、その手を振り払って2、3歩後ずさっていた。
カカシはさすがに驚いたのか、苦笑して、でもすぐにさっきまでの優しい笑みに戻る。戻って、じっと俺を見てる。
俺の頭の中ではさっきのカカシの言葉がぐるぐる回っていた。
「何、言って…」
「ずっと俺と目会わせてくれなかったじゃない。好かれてないのは分かってるけど、でも俺は俺の事見て欲しいから。………わざと手に触れてみても全然俺の事見てくれなかったし…」
わざとだったのか!…と怒りたい所だったけど、言葉が出てこない。
あんたが触るから目を逸らしてたんだ!
…なんて言ったって、何だかおかしな話になりそうだし。
「だから、痛いけど、ちゃんと俺のこと見てくれたから嬉しい。」
笑顔で、
真面目に、
本気で、
さも当然の事のように、
さらっと言い切るカカシに軽く眩暈を覚えた。
「俺の言ってる意味分かった?」
「わ、分かった!分かったけど……」
俺がドキドキしたのは、カカシがそういう意図を持って触れたからって事じゃないか。
させようと思ってされた事でそうなったのなら、そうなったこと自体は俺の所為じゃないって事だ。俺がおかしくなったわけじゃなくて、俺はいつも通りなんだ。
カカシが触れなきゃ、
カカシが見なきゃ、
俺はいつも通りなんだ。その、筈なんだから。
ドキドキ
ドキドキ
心臓が跳ねるほどに上がる俺の温度。
カカシが、こっちを見るから。
カカシの視線が孕んだ熱が伝染する?
熱いのはカカシ?
それとも、俺?
...end
++++++++++
08.03.27
…
び、微妙?!
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