頂き物

□秕様より
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とある天気の良い日。
ファンダムと称されたこの不可思議な世界の中で、二人の戦士が刀を抜いた。

一合、二合、三合。
かきんかきん、と刃と刃がぶつかる音がけたたましく響く。
きらきらと紫に輝く刀身が一気に首筋に迫って長い横髪を数本舞わせる。流石に瞳孔が開き、積年の経験で背中を大きく反らせた。しかしそれを好機と懐に飛込まれた瞬間に、にたりと珍しく口角を上げる。
それに気付かぬ訳はないが対応が遅れ、息を飲んだ瞬間。

「フ、」
「うわぁッ!!」

反らせた体勢から有り得ない角度で足が飛ぶ。当然予想し得ない攻撃に受け身を取らざるを得なくなった。
2m程吹っ飛ばされて、その金髪を舞わせたクレス・アルベインは、膝を着いて着地すると悔しそうに呟いた。

「…参りました」
「…先の攻撃にはひやりとしたがな。迎撃の趣までを読める様になれば大分戦闘にも活かされよう」

ちゃきり、と器用に片手で剣を納めると、クラトス・アウリオンは膝を着いたままのクレスに手を差し出しす。
それに小さく目を見張って、けれど微笑んでクレスは誘われるままに手を伸ばした。

仕合いに誘ったのは、クレスの方だった。歴戦の戦士にもなれば、見ただけで相手の実力が計れる。クレスは自分が実力で敵うかどうか分かりかねる位置にいるクラトスにずっと手合わせを願っており、それが今日折良く実現したのだった。

身近に極稀にしか剣士がいない為に貴重な経験だった、などとクレスが感慨に浸っている間に、クラトスは掴んだ手を一気に引き寄せてクレスを立ち上がらせ――クレスを柔らかく抱き締めた。

「っ?ク、クラトスさっ…、」

突然の事に目を白黒させるクレスに、クラトスは溜息混じりに告げる。

「…これでも年寄りなのでな、癒してくれ。仕合いにも応じたのだ、これくらいは許して欲しい」
「そ、それは感謝してますけど…ッ」

端正な顔立ちを優しく緩め、自分を抱き締めるクラトスにクレスは困惑する。そしてクラトスが更に強く抱き締め直すと、クレスの金髪に鼻先を埋めた時。

「クぅラトぉ――――スッ!!!」
「ひッ!?」
「……、」

それは大きな声が響き、クラトスの腕の中でクレスの肩が撥ねた。先程までは命のやりとりをしていた筈の彼が酷く年相応に見え、クラトスは口許を緩める。

「……………フ」
「フ、じゃねぇよ!!クレスから離れろってばっ」
「ロ、ロイド…」

いきなり絶叫と共に現れたのは、ロイド・アーヴィング。言わずもがな、クラトスの実息である。彼は走ってきたのか息を切らしており、しかし強い力でクラトスとクレスの間に割って入り、彼等を引き離した。
これには流石に親馬鹿と定評高いクラトスも眉をしかめる。

「ロイド、何をする」
「煩いッ、何をするってなぁ此方の台詞だよ!クレスは俺のなの!抱き締めたりなんか、許さないんだからなッ」
「なっ…」

きっと眉根を寄せ、クレスを背後にかばいながらクラトスを睨み据える。クレスはそんなロイドの後ろにいながら、もう何が何なのか分からずにおろおろとしているのだが、話は勝手に進んでいった。

「クレスは誰のものでもなく、クレス自身のものだ。お前が言っているのはただの傲慢ではないか」
「傲慢でもなんでもいいのッ!俺はクレスが好きなんだよ!」
「…私とて好いている」
「あ、ありが…ってはぁあああッ!!?」

いきなりの爆弾発言に流石のクレスもノリ突っ込み。しかしどんどんエスカレートしていくのは、恋が盲目の証か。

「大体なァ!父さ…クラトスがクレスを好きになってどうすんだよ!母さんを裏切んのか!?」
「それとは別次元ではないか、ロイド。アンナは愛しているが、クレスも愛している」
「…え、何それ。思いっきし不倫って事?」

フ、とか鼻に掛けた様ないつもの笑みでクレスの突っ込みを退けたクラトスに、尚もロイドは勢い込む。

「…っだとしても!俺はクレスをあんたにやる訳にはいかねぇ!」
「……ロイド」

親子二人に挟まれ、成す術なく立ち尽くすクレス。泣きたいような心境だった所に、クラトスがふと思い付いた様に言った。

「…クレス。私と籍を入れてくれ」
「え………、はぁあああッ!!?」
「何言ってんだよクラトス!!」

またも無表情で爆弾発言。
ロイドも当然クラトスに掴みかかるが、彼は柔らかく制止した。

「聞け、ロイド。私とクレスが籍を入れる、則ち私達は家族になるのだ」
「え、ちょっと待っ」
「私にとっては妻、お前にとっては母、つまり二人で堂々と愛して良い存在になる訳だ」
「ってちょっとクラトスさんッ!!!そんな無茶苦茶な理屈が…」
「そっかぁああああ!!父さんあったまいい☆」
「きみ頭悪いいい!!(泣)何故そこで納得する―――――ッ!!!」

普段はボケ倒す担当のクレスがすっかり突っ込み役である。
ともあれクラトスの策で仲違い解消な親子は本来の仲の良さでクレスを囲む。当然どちらにも身長で上回れないクレスに逃げる術は無かった。
徐にクラトスがクレスとロイドの腰に腕を回す。何かと身構えた瞬間。

ばさッ、

「っ…は、羽根ッ…が、」
「今から――そうだな、水辺にでも行くとしよう、クレス、ロイド」
「おぉ、連れてってくれ」
「羽根、羽根がッ…」

一人困惑するクレスはそのままに、青い羽根を広げたクラトスが宙を舞った。





「這狽チていやぁああああああッ!!!クラースさん、クラースさぁああああんッ(泣)」
「泣くなよぅ、母さん」
「誰が母さんだぁあああッ!!(怒)」
「大丈夫だ、妻よ。道場なら私とお前のツイン師範代で行こう」
「誰が妻かぁああああッ!!(怒)しかもアーチェみたいなこと言わないでくださ…っ――誰か助けてぇぇえええ!!!!」



クレスの悲痛な叫びが、ファンダムの世界に響き渡った。

「まさにシンフォニア」
「誰が巧いことを言えとぉお!!」
「終わりだッ」



この数分後、リフィルからバトルロッドを借りたミントが、親子からクレスをお姫様だっこで奪還したことは言うまでもない。




END.
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