ガンダムOO部屋

□愛から、逃げている。
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はぁっ、はぁっ、はぁっ……。
動悸がする。それは走ってきた為ではなかった。
ロックオン……。
好きだと言われた。俺が望めば愛してる、とも言ってくれるだろう。
でも、それは俺の焦がれる愛の形ではない。
刹那はぐいっと口元を拭った。
口移しで……そう言われた。
(ロックオン……唇だけがいやに熱い……)
この熱を冷ましたい。刹那は、水飲み場に向かおうとした。
「あ、ハロ」
ふよふよと浮きながら、ハロがやってきた。
「ろっくおん、せつなナグサメタイ。ろっくおん、せつなナグサメタイ」ハロの目がちかちかと赤く点滅する。
「どうして……」
「ろっくおん、せつなスキ。ろっくおん、せつなスキ」
そうしてハロは刹那の腕の中にすっぽりと収まる。刹那は涙が出そうになった。
(俺は……ロックオンの好意に値しない)
けれども、それは逃げなのだ。愛というものから逃げているのだ。
ロックオンが情欲だけで動く男なら……どんなに良かっただろう。愛だの何だのと悩まなくて済む。
俺には……アリー相手の方が性に合っている。好きか嫌いかではなく、楽だからだ。
俺はロックオンが好きで、好き過ぎて、未だにキスもできていない。
ロックオンだって健康な成人男子だ。自分を慰める時もあるであろう。
さっきハロが言った『ナグサメタイ』とは違う。ハロが言ったのは、もっと深い意味でだ。だが、今はそれはいい。
ロックオンは自慰の時、俺の体を想像してるのだろうか。その考えは胸を熱くさせる。しかし、心のどこかで安心もする。自分がロックオンの役に立っているようで。そう……刹那が夜、ベッドの中でロックオンの裸を思い、輾転反側するように。
しかし、今更謝る気にもなれない。それはあまりにも無様な気がする。刹那はまだ幼いが、それでも男の矜持というものがある。たとえ、ロックオンの前ではどろどろに溶かされても。
そうなのだ。ロックオンは、刹那に対し真っ直ぐに向かってくる。だから、刹那は彼が嫌いで好きだ。相反する想いがぐるぐると頭を回る。
「ハロ……悪いがロックオンのところに帰ってくれないか」
「ハロ、せつなキライ。ハロ、せつなキライ」
ハロは刹那から離れ、ふよふよと去っていく。
あれは……怒っているのか?
何となく可愛くなって、刹那は、そんな場合ではないのに、と思いながら、くすりと笑ってしまった。
「可愛いんだから、笑えよ。刹那」
不意に……ロックオンのセリフが頭をよぎった。刹那は思った。
(俺は……上手く笑えているだろうか)
普段から笑うということをあまりしない己である。他のマイスター達はどう思っているだろうか。
「あまり愛想笑いするよりはいいと思う」
これはティエリア。
「最初の頃よりずいぶん表情が柔らかくなったね」
これはアレルヤ。
そしてロックオンは……
「俺は刹那の全てが好きだよ」
ふと心の中に現れたロックオンの笑顔と言葉に刹那はびっくりした。
そうか……俺は、『俺の全てを赦す者』としてロックオンを見ているのだ。
なら……これ以上ロックオンに近づくことはできない。彼に……頼ることはできない。己がどんなに彼を好きでも。
(この想いは……消さなくてはならない)
生まれたばかりで存在すら許されない感情。それは『死』に似ている。エロスとタナトスは親戚……と誰かが言っていたが、刹那にはそれが同一の存在に思える。
(俺はロックオンを愛してはいけない)
ひっそりと埋葬されるはずの感情。その墓の上に降る花びら。
ろっくおんヲアイシテハナラナイ。
何故なら、俺は汚れているから。
そして……ガンダムマイスターだから。
いつ死んでもおかしくない者同士が、愛を語っても虚しいだけだ。
そう思いながらも、ロックオンに対する気持ちは変わらない。
(ロックオン……ロックオン、助けて……)
刹那は呆けたように壁に凭れかかった。涙も乾いたようで、一筋も流れなかった。刹那は祈りの言葉を知らない。ただ、ロックオンの名前を心の底から呼び続けた。

H22.10.27

後書き:
Tomokoさん、連日のニル刹那寄稿ありがとうございました!
刹那の歩み寄れないもどかしさが泣けます…。兄貴からも手を差し延べて欲しいです!

Tomokoさんより後書き:
またロク刹書きました。この間の続きです。
ビシバシに兄貴を意識している刹那です。



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