アレティエ子作り部屋

□ひまっ子ベルたん。
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その日、ライル・ディランディがトレミーの整備員達に嘆願を受けたのは、単にまだ彼が暇そうにしていたからであった。ティエリアからリーダー役を譲り受けた感のある刹那は、間もなく支援機が出来上がる筈のダブルオーの調整に忙しく、ティエリアとアレルヤは休憩時間を家庭サービスに勤しんでいる。
イアンの手には余る事柄だし、スメラギに直訴するのは大袈裟だし…で、マイスターの新入りであるロックオン(ライル)が話の相手に選ばれたのだろう。
いずれにせよ、ライルが他のマイスターに話をしてみると請け負った事で、難しい顔をしていた整備員達はようやく愁眉を開いたのだった。
『いい事をした』と思ってライルは居住地に足を向けたのだが、ティエリアの部屋で自分にどんな運命が待ち受けるか知っていたら、はたしてそれでも目的の部屋に向かっただろうか。

「なるほど、整備員達の運動施設の拡大か…。考えても見なかったな」
机に軽くもたれて立つティエリアが顎に形良い指をやって考え込むのを、ライルは黙って見守る訳にはいかなかった。
ベッドに腰掛けてるアレルヤが、逞しい膝の上に乗っかっている愛娘ベルベットに歌を歌ってやっている。ベルベットは歌いながら時々、ちらっとライルの方を若い父と同じオッドアイで窺うのだが、ライルが自分に構うつもりがないと分かった時点で『つまんない』と見切りを付けたのか、アレルヤの制服の四角い部分をいじり始めた。
「考える余地はあると思うぜ、教官殿。何せ血の気の多い連中が娯楽の少ない仕事をやってんだ。マイスターだけが運動施設独占じゃあ、不満に繋がるかも知れないぜ」
「ふむ…。―――ベルベット、父様の制服をいじるのはやめなさい」
「む〜…」
ベルベットはすっかり夢中になって、GNドライブを模した青緑の四角いパーツをもぎ取ろうと本気で挑み始めた。流石のアレルヤも困った顔をすると、制服の胸をぐいぐい引っ張るベルベットの両手を優しく引きはがし、苦笑気味に告げた。
「ベル、母様の言い付けを聞けない悪い子は踊らせちゃうよ?」
そのままベルベットの両手を上に上げたアレルヤは、自分の膝の上で『えっさっさ〜』と娘を踊らせた。ベルベットはきゃっきゃとかえってはしゃいでいる。
「…」
子供を持たないライルにとっては、かなり目が点になる光景だったが、ティエリアにはこれが日常らしく、澄ましてコーヒーなど飲んでいる。
「…何の話だったっけか」
「マイスターの訓練施設を、整備員達へ貸す件だろう。確かに、マイスターだけが使うにはあの訓練場は広すぎる」
「ああ、そうだもんね。ボールもネットも揃ってて、1on1(ワンオンワン)が出来そうなくらいだものね」
ライルへの父母のツッコミ…殊にアレルヤの言葉に何かピンと来たのか、ベルベットは父の顔を振り仰いで大声で言う。
「わんわんお?」
途端にティエリアもアレルヤも吹き出し、ライルはがっくり来て頭を抱えた。真面目な話も台なしである。
くすくす笑いながら、アレルヤがベルベットのおでこを指先でつつく。
「ベル、わんわんおwwじゃないよ。ワン・オン・ワン」
「わんわんお!」
ベルベットは何度も「わんわんお!」を繰り返して、アレルヤの膝から滑り降りてぴょこぴょこ跳ね回る。呆れ果てたライルは、テンションだだ下がりな顔をしてティエリアに聞く。
「なあ、教官殿…ベル嬢ちゃんテンション馬鹿高くねえか?」
「そうか?別にいつも通りだぞ?」
「…いや…うん…分かったよ…」
溜息をついたライルは、手付かずのコーヒーを苦く飲み下して立ち上がった。
「俺はもう帰るぜ。刹那とミス・スメラギの方へはあんたらから説明しといてくれよ」
「それは良いが、何か疲れているようだな。アレルヤ手製のピロシキを食べれば、ぐっと体調がよくなるぞ」
「いや、いいよ。今夜はもう寝る」
「そうか」
ピロシキは魅力的だが、ライルとしては早く寝煙草を楽しみたかったのだ。帰ろうとするライルの背中に、幼子の声がかけられる。
「ろっくおん、ばいばい〜♪」
振り向かずに手だけを振ったライルは、家族団欒の部屋の扉が閉まると全身で溜息をついた。
「ちっちゃい女の子って、あんなにやかましいもんだったか…?俺…忘れちまったのかなあ…」
亡き妹のエイミーの表情も声も、十年くらい経って記憶は朧げだ。
とにかく、幼女という生き物は自由奔放過ぎて疲れるものだと、ライルはもう何度目かの溜息をついて天井を仰いだのだった。

H25.01.02
屈辱と哀しみの冬コミと同じ、二日目に。
ワンオンワン=わんわんおwwは、今迫害を受けているバスケ漫画のツイッターのネタです。



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