ガンダム00部屋2。

□愛の島にて。
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青い空と緑の木々が織りなすタペストリ。燦々と降り注ぐ太陽の光。白い砂浜。
ガンダムマイスター達は、南の島の秘密基地でバカンスという名の休養をとっていた。
「刹那」
逆光に相手の長めの茶色の癖っ毛が映える。刹那、と呼ばれた少年は眩しさに眉を顰めた。
「どうした、しかめっ面して。せっかくこんな綺麗な島に来たんだ。楽しまなきゃ損だろ」
相手の男は「な?」と言いたげに刹那の顔を覗き込む。
「ロックオン……」
刹那の口が動いた。表には出さないが、少しいらいらしていた。しかし、ロックオンはそんな刹那の気持ちなど忖度しない。彼は意外な言葉を発した。
「刹那、おまえ、髪伸びたな」
「髪……?」
そういえば少し長くなったかもしれない。褐色の肌に黒い髪、紅色の大きな瞳が目立つ刹那は、顔立ちの整った美少年であるが、己の美貌を自覚したことがない。人から指摘される度に、鬱陶しささえ覚える。彼の顔は、男達の欲情の的になることもしばしばだったからだ。
ロックオンはどう思っているだろうか。その気持ちに気づいて、刹那はそっぽを向く。他人の目など、煩わしいだけだと思っていたのに。
「おまえに惚れた」
ロックオンから告白されたのは、そう遠い過去のことではない。
それなのに、ロックオンの自分に向ける緑の目は穏やかで優しいので、刹那はつい期待してしまう。それでは、己も他の人間に愛されることが可能なのかと。…愛することが可能なのかと。
実際、ロックオンの飄々とした明るさは嫌いではない。自分にはない特質だ。
(俺も…ロックオンが好きだ)
マイスターとして。仲間として。恋人としてはどうだろうか…。刹那は、肉体関係を無理強いしないロックオンに対して、心の底からほっとしている。うんざりだ。あの行為は。刹那は苦い精液の味を思い出して吐き気がした。
「元気ねぇな、刹那」
「別に…」
己はどうやら喜怒哀楽の表現の豊かな方ではないらしい。ロックオンは、
「そっか」
と言ったきり、海風に髪を靡かせる。そんなロックオンを見て、刹那は思った。
ロックオンは男らしい果断な性格をしている。見た目も悪くない。…いや、なかなか端正で、女性にもてそうだ。男として憧れるところもある。
そのロックオンが、惚れた、と言ってくれた。自分の存在意義は第一はガンダムだが、ロックオンからも「おまえはここにいていいんだ」と保証してもらえたようで、嬉しい。
…嬉しい?
ロックオンが自分を好きになってくれている。それが嬉しいとは…刹那には馴染みのない感情であった。
そばにいたアレルヤとティエリアはいつの間にかいなくなっていた。
「アレルヤとティエリアは?」
「ああ。二人ならどこかにしけこんだよ」
アレルヤとティエリアが恋人同士であることは、トレミーのメンバーの間では、公然の秘密だった。
「俺達もそうする?」
ロックオンがおどけた。本気ではないな、と刹那は悟った。
「いや…」
「だよなあ。刹那はガンダムに夢中だもんな」
そのことを指摘され、刹那は少しはにかんだ。
「いやあ、うっれしそうな顔。刹那はガンダムに恋してんのか?」
「恋人ではない…俺はガンダムだ」
「ははは、やっぱり夢中ってわけか。早くガンダムになれるといいな、刹那」
茶化すようにロックオンは言ったが、反面本当の気持ちが混じっているようでもある。
「立派なガンダムになれよ」
ふと真剣になったロックオンの表情を見て、刹那は頷いた。
「でもよぉ…ほんとに伸びてきたよなぁ…」
ロックオンが刹那の髪をいじる。刹那はされるがままになっていた。風が心地いい。
「そうだ!待ってろ刹那!髪切ってやるからよ」
言われた刹那はきょとんと目を見開いた。ロックオンはそれをどうとってか、
「大丈夫これでも結構上手いんだぜ」
ロックオンが親指を立てて片目をつぶると、道具を取りにだろう。すぐ近くにある建物に向かっていった。
(ロックオン…)
今、俺は笑えている。その事実に刹那は満足した。

白い大きなシートをかけた刹那にロックオンが、
「なあ、刹那」
と話しかけた。
「…何だ?」
刹那は自分の髪がカットされる音を聞いていた。黒い髪の毛の固まりが、シートや砂浜に落ちていった。
「こういうのをカリスマ美容師ってんだぜ。昔の言葉でな」
ロックオンは、二十世紀から二十一世紀の流行語や風俗に詳しい。
「あんたはカリスマじゃない」
「だな」
ロックオンは気にした様子もない。器用な鋏さばきで刹那の髪を切っていく。
こうしてぼうっとしていると、いろいろなことをとりとめもなく思い浮かぶ。
トレミーでのあれこれ、アレルヤやティエリアのこと、初めてガンダムを見た時のこと、ソレスタルビーイングにスカウトされた日のこと、…ロックオンに初めて会った日のこと。
(ロックオンのこと…どこかで会ったような人だと思った)
それは運命かデジャヴか。ロックオンを見た時、刹那は、嫌いじゃない、と思った。嫌いじゃない、とは、好き、という意味だろうか。自分で自分の気持ちがわからない。
ただ、時々、どうしようもなく胸がときめいて仕方がないことがある。かと思うと、今のようにとても穏やかな気持ちになる。まるで、あるべきものがあるべき場所に当てはまった、という時のように。
波の音が耳を打つ。ハロが、
『髪切り、髪切り』
と嬉しそうに飛び跳ねている。黒い一房の髪をハロは浴びた。
「おっと。すまん。ハロ」
「気にしない、気にしない」
ロックオンがふふっと笑った。
今だけ…今だけ、幸せなふりをしようと刹那は思った。ガンダムに乗っている時とはまた違う幸福感である。
ソラン・イブラヒム…過去の刹那は赦されない罪を犯した。こんな安らかな、波にたゆたうような気持ちを感じることを自分に許すことは、いけないことだろうか。
俺はガンダムにならなければならない。だから…。
「ロックオン…世話になった」
このゆったりとした時間、与えてくれて。
「そりゃどうも」
ロックオンが喜びを交えて呟きながら最後の仕上げをする。
「ほら、美少年のできあがり!」
「…ここからじゃ見えない」
「後で鏡見てみろよ」
ロックオンは刹那の頭を撫でる。気持ち良かった。
男は基地にある邸へと戻る。残された刹那は切り揃えられた毛先を触った。悪くない。刹那が微笑むように口の端をほんの少し上げた。そして、ばっとシートを外して広げた。露わになった細身の、ばねのありそうな上半身は、ひとひらも無駄な肉がついていない鍛え上げられたものである。それは、戦いで自然にそうなった体だった。
黒藍色に染められた空に星が縫い止められている。
それは、南の島での思い出の一つ…。

H23.02.04

後書き
萌え萌えなニル刹をありがとうございます!
私もあのセカンドEDで00に本格的にハマったんだった…(懐)。
南の島で二人きりというシチュエーションはやはりいいです!(萌)

Tomokoさん後書き
ファーストシーズンの二番目のEDを参考(というか引用)にして書きました。



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