ガンダム00部屋2。

□愛と憂鬱、そして愛。
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南の島の暑さは時として人を憂鬱にさせる。
女性陣は冷房の効いた邸内で涼んでいる。ハロは『おやすみ、おやすみ』と電子音で喋っている。唯一元気なのはラッセで、片手腕立て伏せをやっている。王留美はどこかへ姿を消している。
溜め息をついた刹那は外に出た。ガンダムマイスター達は見当たらない。(どこ行ったんだ?あいつら)
刹那はこの暑さで汗ひとつかかない。
(平和だな)
だが、この美しい島にもいつ破壊がもたらされるかわからない。
(その為に…俺達はいる)
さくさくと白い砂を踏みながら、刹那は太陽に顔を向けた。イカロス…蝋の羽で太陽に近づいたギリシャ神話上の人物を思い出した。太陽の熱で蝋が溶け出し、イカロスは真っ逆様に墜ちていった…そんな話だったような気がする。気がしれない。だが、宇宙に進出している我々も、神から見たらイカロスと同様の存在なのかもしれない。その証拠に、スペースコロニーだけでは生活できない。時々は地上に降りることも必要なのだ。
(ティエリアは地上は苦手だと言っていたな)
刹那はまたその辺を歩き始める。
『おさんぽ、おさんぽ』「なんだ、ハロ。ついて来ていたのか」
『家の中、退屈、退屈』ハロが耳をぱたぱたと動かした。正確には、耳状の機械のパーツというべきか。
ハロは一種の清涼剤となっている。MSを操って命を奪っている身には。ハロは戦いの時にも役に立っているし、みんなを和ませる役目も果たす。
「俺と一緒に行くか?」
『行く、行く』
刹那は、黄色い丸い物体であるハロを小脇に抱えた。

ティエリアが柵にもたれてあらぬ方を眺めていた。
「ティエリア・アーデ…」
『何してる、何してる』「刹那か…」
『ハロもいる、ハロもいる』
「ああ、そうだな。すまなかったな、ハロ」
ティエリアは力なく笑った。いつもと違う。いつもなら、ハロなど無視している彼だ。
「…何を考えている?」「別に何も…」
そしてティエリアはこう呟いた。
「地上は…嫌いだな。早く宇宙に戻りたい」
また遠い目をしながら、紫の髪のガンダムマイスターは、また自分の思索に沈んでいった。
「行こう、ハロ」
『またね、またね』
ハロの声を聞くと刹那の心が和んだ。ハロと一緒で良かったと思った。
だが、このハロはロックオンの相棒である。そのうち返さなきゃな、と思いながら、ハロをぎゅっと抱きしめる。まるでハロがロックオンであるかの如く。
『刹那、大丈夫、大丈夫』
ハロが心配してくれている。そこまでの知能がハロにはあるのだ。
「ああ、大丈夫だ」
ティエリアは何を思っていたのか…考えても詮無いことだ。
刹那はまた歩き始める。しばらく行くと、アレルヤの姿が視界に入った。「ハレルヤ…僕はどうしたらいい?」
また独り言だ。マイスターの中では比較的まともそうに見える彼だが、何か大変な問題を抱えているらしい。
ガンダムマイスターは、少年兵であった刹那を含めて、みな訳ありなのだ。…ティエリアやロックオンも。皆、それぞれの思いを賭けて戦っている。
アレルヤは、割れた鏡の前に佇んでいる。刹那はアレルヤの方へ一歩足を踏み出した。
『アレルヤ、アレルヤ』
ハロが嬉しそうに耳を動かす。
ハロはアレルヤに懐いているらしい。
「やあ、刹那」
深緑色の髪の青年がこちらを向く。
「…アレルヤ・ハプティズム」
「君は何しに?」
『おさんぽ、おさんぽ』アレルヤの質問に対し、刹那の代わりにハロが答える。
「まあ、そんなところだ」
刹那は付け足した。
「変なとこ見られたね、僕…」
「構わない」
アレルヤの台詞を刹那が遮った。
「このまま、マイスターを続けていていいのかどうか迷ってね」
アレルヤは穏やかな優しい青年だ。できれば戦いを忌避したいのだろう。だが、時々とんでもなく好戦的な一面も見せる。「俺達は戦うのが仕事だ」
「ああ…そうだね」
弱々しく微笑む様がティエリアとだぶった。
「宇宙に戻る前に答えを出せ」
ぶっきらぼうに刹那が言った。彼はいつもこの口調だ。不器用だが、ある種の人間には魅力すら感じるらしい。たとえばロックオンのような男には。刹那は無愛想だが優しい。それを知っている人間は大抵この少年を好きになるのだ。沙慈・クロスロードのように。…そして、ロックオン・ストラトスのように。
「あんまり一人で背負いこみ過ぎるなよ、刹那」
こんな自分の為に、ロックオンは本気で心配してくれた。それはとりもなおさず仲間として、そして恋人としてだ。ロックオンの為になら死んでもいいが、彼はまず喜ばないだろうし、そもそもそれを伝える術が見当たらない。
本当に、不器用な少年なのだ。
「一人で大丈夫か?アレルヤ」
「ああ…ありがとう」
アレルヤの笑みは哀しい笑みだった。
『元気出して、元気出して』
ハロがアレルヤを慰めようとする。だが、こういう時は一人で頭を冷やした方がいい。刹那は踵を返した。
いろいろ考えているうちにロックオンが恋しくなり、彼を探そうと思った。ハロと一緒に。
ロックオンはいつもの定位置にいた。折った片膝を抱え込んで鬱々としている。いつもの、飄々としたみんなの兄貴分、ロックオン・ストラトスではない。何か自分の考えにどっぷりと浸かっているようだ。あの男があんな様子をしているなんて、よくよくのことだ。
邪魔しない方がいいか…刹那が足音も立てず立ち去ろうとしたその時。
『ロックオン、ロックオン』
刹那から離れたハロが鞠のように弾んだ。
「ハロ…刹那?!」
ロックオンは弾かれたように立ち上がり、刹那の方に駆け寄って抱きしめた。刹那が苦しくなってしまうまでに。
『なかよし、なかよし』と、ハロが跳ねた。
「刹那…今、おまえに会いたいと思ってたんだ!」
テレパシーかな?とロックオンはのたまう。
「…嘘だろ?」
「ほんとだって!」
「おまえは…自分の中に浸っていた」
「何だ。そんなことか」
「何があった。話せ」
できる限りでいいから。
「…話しても仕様がないと思うがなあ…」
「俺とあんたは他人ではない」
刹那がきっぱりと断言した。アレルヤ相手の時には、決して吐かなかった台詞だ。でも、心配はいらない。アレルヤにはティエリアがいる。
本当はロックオンも一人にしておいた方が良かったのかもしれないが、もう放ってはおけない。
(恋人として…と言ってもいいんだろうか…ロックオン)
決して自惚れではないと、今なら自信を持って言える。刹那はロックオンが好きだし、ロックオンは刹那を愛している。ようやくそれを受け入れられるようになりつつあった。
…暫し間があいた。
「…家族のことを…考えていたんだ…」
ロックオンは刹那を抱きしめたまま言った。彼は…泣いていた。涙が止まらないようで…それきり多くは語らなかった。でも、今はそれでいい。
『泣かないで、ロックオン、泣かないで』
と、ハロ。
いつか、話してくれるな。ロックオン。俺は…おまえに付き合うから。
目の前の男が、年上の男というより、藁をもつかむ少年に似て見えた。
(ロックオン、おまえも戦っているのだな。人知れず悩みながら)
刹那は、ロックオンの背中に腕をそっと回した。
今はこのぐらいしかできないけど…もっと大きく強くなったら…あんたらの為に、あんたらみたいな懊悩を持つ人々を救う為に、ガンダムになりたい。刹那はそう決意した。願いではなく、決意を。それはおこがましいだろうか。
(それでも俺達は前に進んでいかなくてはならない)
「刹那」
泣くのが一段落したロックオンは、目元を拭い、引きつったように笑った。
「…キスしていいか?」「ああ」
刹那はロックオンの口づけを受けた。そんな二人を日の光が照らす。
「ありがとうな、来てくれて…刹那」
「辛いなら無理するな」「おまえもな」
そうして二人はゆっくりと離れた。
『ロックオン、元気出た。ロックオン、元気出た』
「ハロ…わかってんじゃねえか、こいつ!さすが俺の相棒だぜ!」
ロックオンにはいつもの笑顔が戻った。
刹那はほっとして、ロックオンとハロを交互に眺めた。
太陽が彼らを祝福するようにたっぷり光をまいて照り輝いていた。

H23.02.16

後書き
Tomokoさんのニル刹「愛シリーズ」、南の島編に突入してから刹那が心なしか色っぽくなっている気が…私のニル刹腐脳みそのせいでしょうか?(笑)
アレティエも愛情溢れてて素敵です!
ありがとうございました!

Tomokoさんのあとがき
これは、まだ刹那がロックオンの家族のことを知らないという設定で書きました。それ以外には、年代は特に決めておりません。ライルの話が出なかったな…。
ようやくロックオンの恋人というポジションに慣れましたね、刹那。
ティエリアとアレルヤの話を書いたら、思わず長くなってしまいました。では。似るなり焼くなり好きにしてくださいませ。
個人的にはハロがいっぱい書けて満足でした(笑)



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