ガンダム00部屋3。

□誕生日に花を。
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ロックオンの今のいでたちを見るなり、刹那は目を見開いた。相手は上品な黒の三つ揃いの姿だ。洗練されていて、茶色の長めの髪と緑色の目に合っていた。
そんな彼が、刹那の部屋の前に立っていたというわけだ。
「よっ」
ロックオンが片手を上げた。その仕草も、ひどく似合っていた。
「…どこかへ行くのか?」
「そっ、デートへ」
だったら、自分の家に寄らなくてもいいじゃないか。刹那は思った。
「さっさと正装して来い!刹那!」
「…デートの相手は俺か…」
仕方なさそうに言ったものの、嬉しくないわけではなかった。
「…駄目か?」
もっとお洒落してくんだったかな、とロックオンが呟くのが刹那の耳に届いた。
全く。勘違いも甚だしい。
ロックオンのデートの相手に、一瞬焼き餅を焼いてしまったのは、彼には内緒だ。
「さあさ、刹那も着替えた着替えた」
「黒の上下しかないぞ」「じゃあ、それでいいから」
「…葬式と間違われないか?」
「俺がいるから大丈夫だよ」
どこからそういう根拠が…と刹那は言いかけて止めた。
黒の三つ揃いのロックオン。隣にドレスアップした女性がいたら、完璧に素敵なカップルだと、誰もが思うであろう。
自分は場違いだ。
「どうして俺なんだ…」
ロックオンは辛抱強く刹那の次のセリフを待っている。が、答えが返って来ないので、痺れを切らしたのか、口を開いた。「あのな…その…今日はお前の誕生日だろ?だからだ」
ロックオンが心なしか頬を赤くしながら答えた。
「だからさ…お前と食事に…ついでにドライブに行きたいと思ったんだ。店も予約してあるし…て、何がおかしいんだ、刹那」
刹那は自分でも知らぬうちに微笑んでいたらしい。
「何でもない」
「そっか…じゃあ着替えて来いよ。俺はここで待ってっから」
(俺はここで待ってっから)
待つ人のいるということは、何と嬉しいことだろう。それに、彼は誕生日祝いをしてくれるとのことだった。
(誕生日か…すっかり忘れてたな)
誰も自分の誕生日など祝ってくれなかったから。クルジスでの日々は別として。
ロックオンは刹那をエスコートした。恥ずかしくなりつつも、刹那はそれを受けた。
「俺の愛車だ。助手席に乗ってくれ」
刹那が席に落ち着くとロックオンは車を運転し始めた。
「いい車だな」
「だろ?」
「レストランも予約してあるんだ」
着いたのは高級レストラン。
刹那とロックオンが肉料理をつついていると…。「やっぱりフォアグラは美味しいわよねー」
けたたましい女性の声が聞こえた。派手な身なりをしている。
刹那達の席の近くだ。
「それより、ねぇ、あの二人」
その女性の友人と思しき、シックに決めたもう一人の女が刹那達を見ているようだ。刹那は存在を確認した上で、敢えて無視しようとした。
「絵にはなるけどさー、相手まだ子供でしょ?しかも男だし」
「どれ?きゃあ、超いい男だわ!」
「茶髪の人でしょ?」
「あの黒髪の坊やとどんな関係なのかしら。もしかして、ホモ?」
「やあだ。あんたってすぐそういう発想に走るんだから」
刹那の眦がぴくっと動いた。そうとも知らず女が続けた。
「多分孤児を拾ったのよ。全然似てないから。で、面倒見ていると」
「見返りなしで?」
「当然よ!美形に悪い人はいないわ」
じゃあ、どうして結構美形である犯罪者も少なくないのだ、と刹那は無視しようと決めながらも、心の中で突っ込まずにいられなかった。
「ま、そう考えるとあの子可哀想よねー」
オールドミス達の妄想ストーリーでは、刹那はすっかり気の毒な少年になっていた。周りが静かなので、余計声が響く。
孤児には違いないし、ロックオンの世話にもなっているが、不憫に思われるほどの環境じゃない。
それに、刹那にはガンダムがある。
「…出ようか?刹那」
弱り切った顔でロックオンは席を立った。刹那もそれに倣った。
結局、彼らはオールドミス達の話の肴にしかならなかったようだ。同情の眼差しを向ける他の客もいた。
「ふぅ」
店から出ると、ロックオンは溜め息をついた。空には星が瞬いている。
「レストラン、貸切にしてやれば良かったな」
「…」
「ま、いいや。ちょっとその辺流すか」
二人は車でドライブと洒落込んだ。
「プレゼントは何がいい?」
「プレゼントまでくれるのか?!」
刹那は、ロックオンが祝ってくれるその心が最高のプレゼントだとばかり思っていたのだ。
それなのに…まだもらえるとは。
「いろいろ考えたけど…いいのが思い浮かばなかった。やっぱりガンダム関連がいいか?」
「俺は…このままでいい」
「寂しいこと言うなよなぁ…」
けれど、刹那は幸せだから。本当に幸せだから。
ロックオン以外、何もいらない。
いや、正確には、ガンダムとロックオン以外、なのだが。
あんなに…ロックオンを自分から遠ざけようとしていた過去が嘘みたいだ。
「今度はマイスターのみんなでお祝いしような」
「…ん」
刹那の目がとろんとなって…そのまま眠った。
「おやすみ」
車がどこかに止まったらしい。額に温かい感触があった。だが、それは夢かもしれなかった。

翌日…豪奢な花束が刹那の膝の上にあった。
いろいろな花が勢揃いしている。名前の知らない花もあった。
「ちょっと…ありきたりだったかな?」
と、ロックオン。
「いや…」
「ガンダム関連はイアンのおやっさんに任せてあるからなぁ」
ロックオンは呟いた。
「あ、ああ…」
刹那の口から言葉にならない声が洩れた。
花は嫌いではない。むしろ、好きだ。それに、ロックオンが選んでくれたというだけで貴重なのだ。
「ありがとう、ロックオン」
刹那の言葉に、ロックオンは面映ゆそうに笑った。
「ハッピーバースデイ、刹那」
ロックオンはまだあどけなさの残る刹那の頭を優しく撫でた。

H23.04.10

後書き
Tomokoさん、ニル刹な刹那誕生日小説をありがとうございます!
まこと刹那が可愛い…
兄貴には、誕生日の可愛い刹那がプレゼントされるのでしょうか(笑)。

Tomokoさんのあとがき
遅れてしまったけれども、刹那、誕生日おめでとう!



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