ガンダム00部屋4。

□シロッコの大地で。
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俺が砂漠を旅していた頃、シロッコという熱風に遭遇した。
口の中が熱い。鼻も熱い。熱い風に燃えてしまいそうだった。自分が刹那・F・セイエイこと、ソラン・イブラヒムであることも忘れて…。
俺はどろどろに溶けた人形と化した。何度心の中でロックオンの名を呼んだことか。
あの男さえ傍にいてくれれば俺は…。
(負けるなよ)
不意にあの男の声が聴こえたような気がした。
(ロックオン!)
(全ては聖書に書いてある。神は耐え切れないほどの試練は与えない。脱出の道も備えている)
「ロックオン…ぶわっ」
俺はシロッコの存在も忘れて、口を開いた。その途端、大量の砂粒が口内に入る。吐いても吐いても、侵入してくる。
ここはキリスト教の世界じゃない。アラーの支配する国だ。
ああ、そういえばコーランにも、「神は汝と汝の行動の全てを創り給えり」と書いてあるそうだ。コーランはこの国の人々にとって、真理であり、神の啓示であるのだ。宿命論者の、友となった男が言っていた。
「刹那よ。メクトウブ…これはすでに書かれている、と言った意味さ。だから俺達は、災難が来ても慌てない」
俺には神の存在はわからない。だが、人々の信仰の強さだけは、何とか感じ取ることができる。
だから、信仰を弄ぶ者を赦してはおけない。それだったら無神論者の方がまだマシだ。
神は本当にいるのか。さっきも言ったように、俺にはわからない。だが、神を信じている者達の、何と穏やかなことか。災難に直面した時の彼らの行動の何と的確なことか。
メクトウブ…神の本には全て書かれているということか。ロックオンの死でさえも。
全ては書かれている…。
「メクトウブ!」
シロッコが去った後、俺は叫んでいた。みんなはきょとんとしていたが、やがてあちこちから、
「メクトウブ!」
の声が上がった。
ヴェーダにも、全ての計算の答えがわかっているのかもしれない。
だが、それを支配している存在もまた、いるのだろう。
俺達が数々の局面でピンチに陥った時、見えざる手が救ってくれた。
「…メクトウブ」
俺はもう一度、呟くように言う。
全ては宿命である。
だから、俺達は、その中で最善を尽くさねばならない。
例え、ロックオンの時には助けに行くのが間に合わなかったとしても…。
ロックオンは精一杯、命の限り生きたんだ。俺は、そう信じている。
(刹那…)
わかっている。ロックオン。俺はこの世界で能う限り生きる。
そして…自分の指命を全うする。俺を必要とする者があれば、俺はいつだって飛んでいく。神の傀儡になるのはごめんだが。
メクトウブ。
いつか、全ては正しかったのだと思う時が来るかもしれない。今はどんなに辛くても。
ロックオン…お前が俺に、生きる勇気を与えてくれた。共に生きよう。ロックオン!
そして俺は、いや、俺達は一歩踏み出すのだった…。

H23.08.01

後書き
Tomokoさんのニル刹冥婚譚の流れの作品です。Tomokoさんいつもありがとうございます!
シロッコが、激しいニル刹の情念の高まりに見えました

Tomokoさんのあとがき
参考文献は、デール・カーネギーの『道は開ける』でした。
今回は『メクトウブ』という語を使いたかったのです!



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