ガンダム00部屋5。

□紫モンブランに纏わる悲喜劇。
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「邪道だ」
「そうかな?」
渋い顔で、つい今しがたおやつにとアレルヤが差し出した皿を前にして、ティエリアが言う。アレルヤは普段ティエリアに言いたい放題言われ慣れてるので、もうこの程度の渋い顔と声には動じない。
寧ろ、『ティエリアって拗ねた顔も可愛いなあ〜』とすっとぼけた事を甘く考えている位だ。
「モンブランが紫色をしているなんて、邪道だ!」
「でも美味しいんだよ、紫芋のモンブラン」
ほら、と自分の分の紫モンブランをフォークで掬って、アレルヤはいかにも美味しげに食べて見せた。
「うーん、美味しい(^〜^)」
「…食べるか喋るかどちらかにしろ」
むっつりとしたティエリアだったが、アレルヤがうまうま食べている所を見ると、自分も紫モンブランへの好奇心が浮かんで来るのを止められなくなって来たようだった。
「アレルヤ、僕にも一口寄越せ」
「え、目の前に手付かずのがあるのに?」
きょとんとするアレルヤに、怒り顔だけど照れたように赤面したティエリアが言った。
「君の食べたのが食べたいんだ!」
アレルヤの強情な恋人はぶすくれた顔も可愛いくて、多少の我が儘くらい聞いてやりたいと思ってしまう。アレルヤは微笑んで、自分の紫モンブランをフォークに乗せてティエリアに差し出した。
「はい、ティエ。あーん」
ティエリアは珍しく素直に口を開けて、モンブランを食べた。しっかり紫芋のクリームを味わい、栗との調和を愉しんだティエリアの表情に、満足げな色が浮かぶのをアレルヤはそのオッドアイで確かめた。
「…思っていたよりは悪くない」
拗ねたように言うティエリアが、その実は味覚の喜びをまた一つ自分の料理で知ったことを、アレルヤは内心ガッツポーズしながら喜んだ。
「まだ手付かずのも有るから、もっと食べなよ」
アレルヤが促すと、ティエリアは自分の皿から食べ始める。そして、ぽつりと呟いた。
「君とこうして物を食べると、食べる事が楽しくなって困る」
「どうして?いいじゃない。食べる事が楽しいの」
「…俺は本来、食べる事を必要とはしない」
紅い瞳が、ひたとアレルヤを見据えた。
「君は俺に、余計な娯楽を増やした」
アレルヤは笑って、ティエリアに聞く。
「ヴェーダに怒られるのが嫌?」
ティエリアは俯いて、答えない。アレルヤはティエリアのフォークを握りしめた手を広い掌で押し包むと、穏やかに言った。
「大丈夫だよ、ティエリア。ヴェーダに怒られる時は、僕も一緒に怒られてあげるから」
ティエリアがアレルヤを見つめる。一旦眼を逸らしたティエリアはアレルヤの掌から手を引き、再び紫モンブランを食べ始める。
「これの味は悪くない。だから今は…食べてやる」
素直じゃない言い草に、アレルヤは苦笑する。彼の頭脳の中で、ハレルヤが嘲笑う。
(ヴェーダのお人形を手なずけて満足かよ?ええ?アレルヤ)
「僕は嬉しいよ。ティエリアが食べて好きと思う物が増えるのが」
ティエリアは突然のアレルヤの言葉が、自分に向けた物ではないと知っていたようだったが、アレルヤを静かに見つめて続く言葉を待っている。
「だからね、ハレルヤ。ティエリアが物を食べて素敵な表情をするのを君も見守っててよ」
(バーカ、俺は操り人形のお守りなんざ真っ平だね)
それきりハレルヤの意識が途切れる。眠りに入ったのだ。
ティエリアが言う。
「…もう一人の君は何と?」
「うん…。ハレルヤは僕が君にこうして美味しい物を作ったげる事を、虚栄心の問題で考えてるみたい」
アレルヤの表情が曇るのを宥めるように、ティエリアが真摯な美しい表情で言った。
「君が俺に勝ちたいという虚栄心で出来た食べ物なら、俺が美味しいと思う筈がない。それだけは分かる」
「ティエリア…」
アレルヤがオッドアイを見開き、ティエリアを見つめると、ティエリアはティーカップの中のインペリアルブラックティーを飲み干してアレルヤに差し出す。
「もう一杯」
何もなかったように、自分ともう一人の自分の葛藤を受け入れる恋人を優しく見つめて、アレルヤはそれに応じた。
「お茶も美味しいのを入れるよ」
ティエリアが黒紫の髪の毛を揺らして頷くのにアレルヤは屈み込んで、自分と同じで恋人の二つあるつむじにキスを贈った。

H24.08.18

後書き
暑い(;´д`)けどインスピレーション降りて来たので書きました。元ネタはテニプリのモンブラン好き不良とその可愛い後輩なんですけどね(笑)。
久々の一期アレティエは、何かと不穏な物を孕みつつも優しく歩み寄っている感じです。



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