ガンダム00部屋5。

□日盛りの四人。
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「よぉ、刹那。天気がいいからピクニックにでも行こうぜ」
またそれか……。
刹那がうんざりした顔でロックオンを見つめた。
この男はやれ、モーニングコーヒーだ、やれドライブだと刹那を外に連れ出す。
楽しくないわけではないが、行く前は億劫な気分になる。
でも、まあ、気分転換にはなるし。
「わかったよ、ロックオン」
吐息と共に吐き出す台詞。
「アレルヤに弁当作ってもらおうぜ。ついでにアレルヤとティエリア誘って」

そして戸外。
「清々しい陽気だね」
アレルヤが嬉しそうにバスケットを揺らす。
「おいおい、中身大丈夫か」
心配になったようなロックオンが言う。
「大丈夫だろう。腹に入ればみな同じだ」
「……身も蓋も無いこと言うなよ、刹那」
「こんな暑い日に出かけることなかったんだ」
首元を心持ちくつろげてティエリアは不満顔だ。長袖の上着を着ていないと、彼の白い皮膚は日焼けしてしまうだろう。
「そうかい?気持ちのいい天気だけどね」
アレルヤは平気の平左だ。ティエリアに何を言われようと、怒った顔を見たことがない。
「着いたぞ」
そこは絶好のロケーション。芝生にあずまや。
「まずご飯を食べようか」
アレルヤがあずまやへと向かう。ロックオンもついて行く。
犬を連れてきた白髪のおじさんが手を降っている。麦藁帽子をかぶっている。赤いリードをつけた犬が走ってくる。残念ながらそれはアレルヤの好きなマルチーズではなくて、小柄のシーズー犬だった。だが。
「わあ、可愛いな。こっちおいで」
…アレルヤは動物なら何でも好きらしい。シーズーはさっきからキャンキャン吠えている。その体からは犬独特の臭いがしたが、きちんと狩っている体毛は毛並みがいい。耳の上にひまわりの髪飾りをしているところを見ると女の子らしい。
「いやあ、すみませんねぇ」
人の良さそうなおじさんはぺこりと頭を下げた。
「いいんですよ。これから食事ですが、ご一緒にどうですか?」
「私達は済ませてきたばかりですよ」
おじさんは笑顔で答えた。
アレルヤがシーズーの頭を撫でると、彼女(メスだから彼女)はちぎれんばかりにしっぽを振る。
「刹那も撫でてごらん」アレルヤの言葉に刹那が手を伸ばすと、シーズーは「うーっ」と唸った。
「…嫌われた」
何となくショックだった。
「普通はこういう反応なんですよ」
愛しくて仕様がないというみたいにおじさんは笑っていた。おじさんにとって見れば、アレルヤが特別なのだろう。
あずまやの机にご馳走が並ぶ。サンドイッチロール、鶏肉のマリネ、冷製のパスタ、椎茸のバタ炒め…。
「見ているだけで胸が焼けそうだ」
ティエリアは閉口した体で言う。
「おまえにもやる」
刹那は肉を一片、シーズーにやる。犬は喜んで美味しそうに平らげた。
「こら、刹那。勝手に人の家の犬に食べ物をやってはいけないではないか」
ティエリアが窘める。「そ、そうか…済まなかった」
刹那の台詞の後半はおじさんに向かって言ったものだった。
「いやいや」
おじさんはいいとも悪いとも答えない。
「コーンポタージュもあるけどいるかな」
「だから、これ以上その犬にはやるなと…」
「ティエリアの分だよ」
「む…そうか」
眼鏡の奥の目が和らいで見えたのは刹那の気のせいではないだろう。
さっきので味を占めたらしいシーズーはまた吠え出した。
「こらこら、君はさっき食べたばかりでしょうが。ご飯をたくさん」
おじさんはシーズーを抱き上げた。軽々と。
「それでは、お邪魔しました」
おじさんは芝生に行くとまた犬を放す。犬は無人の芝生を駆けていく。どこまでも、どこまでも…。
あの犬にも帰る場所はあるんだな。そう思うと刹那はちょっと複雑な気分になった。鳥やきつねにねぐらがあっても、人の子には枕するところさえない。日本にあるマンションの部屋は仮の住まいだ。
何とは無しにロックオンの方を見つめた。
「なんだ?刹那」
ロックオンはセロリのサラダを頬張っている。
「…いや、何でもない」
今、自分は何てことを思ったのだろう。
ロックオンの懐が終の住家、だなんて。
…冗談じゃない。
だが、否定すればする程その想いは大きくなって…。
ごまかす為に刹那は金色のポタージュスープを息を吹いて冷ましながら飲んだ。アレルヤの手は絶妙な味を生む。ティエリアだとこうはいかない。何せティエリアはオーブンを爆発させた男だから。(ティエリアは男だ…と言い切れない部分はあるが、彼は自分は男だと言い張っているし、菫色のセミロングと眼鏡をかけた紅の瞳という美貌、しかし、その口唇から出る声は紛れもなく低い男の声であるからだ。彼をナンパして『男か』と勝手に幻滅した者もいる)。
「ティエリア、あーんしようか」
アレルヤはノリノリできく。
「…くだらない」
「刹那、あーん」
ロックオンも真似して言う。
「一人でやってろ」
刹那もけんもほろろにやっつける。
「ああ、ロックオン、あなたも断られましたか」
「アレルヤ、おまえもな」
「でもそういうつんけんした態度も」
「相手が好きな奴だと堪らない魅力になるんだ」
ティエリアも刹那も自分達のことで意気投合した互いの恋人の言うことを無視して食事に熱中していた。
「はーっ、食った食った」
四人前にしてはいささか量が多そうだった料理はきっちりマイスターズの胃袋に納まっていた。
「後で夕日でも見に行くかあ」
ロックオンは深呼吸して伸びをする。
「まだずいぶんと時間があるぞ」
「車で来れば良かったかな」
「今日は疲れた。地上の引力は好きじゃない」
ティエリアが文句を言った。
「じゃ、今日は帰ろうか」
アレルヤがバスケットを抱えた。
「ちょっと時間が早いけれど」
「あー、どっか行きてぇなぁ」
ロックオンは不満げに口を尖らせる。
シーズーを連れたおじさんはもういなくなっていた。
「のんびり散歩しながら行きましょう」
「そうだな」
その時、あるわがままが刹那の口をついて出た。
「…海が見たい」
「海か!いいな」
ロックオンがぱんと手を叩く。
「海は潮くさくなるから嫌だ」
「そんな君も可愛いよ」
アレルヤの何千何万と言われただろう口説き文句にティエリアは真っ赤になった。そんなティエリアを横で見ていた刹那は初々しく思った。
(俺も、ロックオンが初めての男だったら良かった…)
刹那はアリーと体験したことを久しぶりに恥じた。
だいたい三十分後あたりに浜辺に着いた。
刹那はもう、嫌なことは意識的に忘れて、赤いターバンを風に靡かせながら波がさらう砂浜を走って行った。
ロックオンが目を眇めて眺めているのにも気がつかなかった。

H24.08.18

後書き
これも、大分以前にTomokoさんから頂いた作品です。可愛いマイスターズ(とシーズーとおじさん)が発表出来て嬉しいo(^-^)oです!(そして、痛烈にアレルヤの料理が食べたいと思った)
Tomokoさんありがとう!

Tomokoさんのあとがき
眠れなかったので書いた小説。ほんの筆すさびです。
実はシーズーとおじさんにはモデルがいます。私の身近な人です。



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