ガンダムOO部屋

□踊れ 喜べ 汝、幸いなる魂よ。
1ページ/1ページ

ティエリアがその曲を知ったのは、全くの偶然だった。というのはいささか事情が許さない。何しろ、ミッションとミッションの間のエアポケットみたいに暇な時間を持て余して、つい恋人の名前を携帯で検索してしまったからだ。
「アレルヤ、アレルヤ…」
アレルヤという言葉で検索すると、たいていひっかかるのは聖俗いずれも歌であった。聖歌、流行歌。流行歌はハレルヤが多い辺り、何だかはまってる…とティエリアは思った。
と、一つのサイトに行き当たる。どうやらクラシック曲をダウンロードできる音楽サイトらしい。アレルヤという言葉でひっかかるのは、アレルヤという曲が存在するかららしい。
「ふむ…」
ティエリアはそのサイトのその曲を試聴してみる。とても美しい、しかし、実際歌うには難曲そうな旋律が流れて来た。アレルヤという単語だけを繰り返し、しかも単調では有り得ない上がり下がりの結構激しい、だが無意味にアップテンポではない旋律に翻弄される。
「…」
聴き終えたティエリアは、課金を払って正式にその曲をダウンロードした。

アレルヤは少し苛立っていた。せっかくティエリアの部屋に遊びに来たのに、肝心のティエリアは端末でヴァーチェのシステムの最終チェックをしている。
(せっかく恋人同士になれたのにさ…)
アレルヤはこっそり携帯を取り出すと、短縮ナンバーを押した。机に放り出してあったティエリアの携帯が震え、着メロが響く。
それは「アレルヤ」という単語の繰り返しな歌だった。
「…!」
慌てたティエリアが消去ボタンを押す。旋律は一瞬にして消えた。
「…アレルヤ、だって。僕の歌?」
アレルヤがいかにも嬉しそうに問い掛けると、どこか悔しげな表情をしたティエリアが白状する。
「踊れ、喜べ、汝、幸いなる魂よ。というモーツァルトのモテットの一曲だ。偶然携帯で見つけて…いい曲だったからダウンロードした」
「僕の名前の歌だから?」
「違う!偶然だ!」
「ホント?」
「…当たり前だ」
反駁の声が弱くなる。アレルヤは微笑み、ティエリアを携帯ごと抱きしめる。憂鬱など消え去っていた。
「嬉しいよ。僕の名前を君が好きで選んでくれた」
「アレルヤ…」
「ティエリア、大好き」
アレルヤはティエリアに、この上なく優しく接吻した。

ティエリアは紫の闇にオレンジライトが明滅する電子空間で目覚めた。まだ本格的に目覚めるには足りないまどろみの時間。本日の日付を確かめて、ティエリアは大事な人間の日だと思う。
彼は今、巡礼の旅に出ている。後二・三時間もすれば、山岳地帯に入って通信が適わなくなるだろう。
ティエリアは思考を飛ばす。オレンジの画面が浮遊空間に四角く現れ、そこに光の文字が綴られて行く。

アレルヤは、リュックに詰めた携帯が震え、一つの旋律を紡ぎ出すのを確認した。モーツァルトのモテット「アレルヤ」だ。
「ティエリア!?」
急いで取り出し、通信を繋ぐ。一見素っ気ないメールが届いていた。
『そろそろ山岳地帯に差し掛かる頃だろうから、連絡待ちになる前にメールを送る』
文章の繋がりから浮いたぎこちない絵文字…プレゼントの包みの絵文字が目に入り、更に文章が続く。
『誕生日おめでとう。アレルヤ、君が生まれてくれて嬉しい』
「ティエリア…」
アレルヤは、携帯の画面に口付けて微笑む。
「何よりの贈り物だよ。ティエリア」
遠い電脳空間に精神だけで居る恋人に、アレルヤは届かないだろうけど精一杯の睦言を囁いた。
ケーキもチキンもシャンパンも無くても、君の言葉が一番の。


H22.02.27
アレルヤ、お誕生日おめでとう!
劇場版でのティエリアとの再会を待ち侘びてます! 離れていた二年分祝われて下さい!(笑)
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ