ガンダムOO部屋

□スイーツ。
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「…えっ、嘘っ!」
珍しくマイスター四人がプトレマイオスの食堂に揃った昼過ぎ、テーブルについて何やらアジアンテイストのお菓子の本を眺めていたアレルヤが驚いた声を上げる。向かいに座っていたティエリアが「いきなり大声を出すな」と言わんばかりのしかめ面でアレルヤを睨むのを、隣のテーブルに向かい合わせについていた刹那とロックオンは何気なく見る。
「どうした、アレルヤ・ハプティズム」
「ティエリア…いや、これさ…」
「…何だと!?」
アレルヤが指差す本の記述を読んだティエリアが、やはり驚いた声を上げる。刹那は興味を惹かれたが、黙ってミルクを飲んでいた。
「どうしたよ。二人とも」
「ロックオン…これ、見て下さいよ」
「んー何なに、…ヘルシーな香港スイーツ、本来は石膏の粉を使います…!?石膏!?スイーツにか!?」
覗き込んだロックオンはアレルヤに差し出された本の一節を読んで、心底たまげたと言った表情になった。
「マジかよ…石膏とか食えた代物じゃないだろ」
「石膏は食える」
突如、刹那は口を開いた。唇から流れ出たのは、無味乾燥な言葉の連なりだった。
「石膏って、食えるのか!?」
「食える。水に溶かせば、腹の足しになる」
「しかし、それでは栄養にならんだろう」
ティエリアが反論するのもまるで気にしてないように、刹那は淡々と言葉を続けた。
「空腹で、他に口にする物がないなら、石膏だろうが紙だろうが排泄物だろうが食える」
「刹那…」
ロックオンが眉を寄せて自分を痛ましげに見るのに、刹那は失敗したと思った。自分は些か語り過ぎたようだ。
刹那は手にしたカップのミルクを飲み干すと、席を立つ。
「ごちそうさま、だ。デザートは必要ない」
「あ、おい、刹那!」
食堂を出て行く刹那を追い掛けるそぶりを見せたロックオンが、途中で振り返ってアレルヤに告げる。
「悪い、アレルヤ。後はよろしくな」
「はい、頼まれました」
苦笑しつつ頷くアレルヤに安心して、ロックオンは今度こそ刹那を追って廊下に飛び出して行く。二人の姿が見えなくなると、ティエリアが不機嫌そうに呟く。
「馴れ合い過ぎだ。ロックオン・ストラトスも、君も」
「いいじゃない。ミッションになったら嫌でも個人プレイに走る僕らだから、たまにはこう言うのも」
「ふん…」
面白くなさそうに鼻を鳴らしたティエリアは、アレルヤがお菓子の作り方の本を片手に厨房へ入って行くのを見遣った。いつもなら自分の為にお菓子作りの腕を奮ってくれる男が、今日は刹那の為に腕を奮うのが少しばかり気に食わないのだが、そんな事を口にするのも気に食わない。
ティエリアは結局、アレルヤがて煎れてくれた紅茶を飲みながら、言いたい文句を飲み下した。

「刹那、待てって、刹那!」
ロックオンの手袋を嵌めた手が、刹那の細い腕を掴む。刹那は振り向いて、赤みを帯びた瞳でロックオンの海色の瞳を睨み上げた。
ロックオンは小さく溜息を吐いて、呟いた。
「お前、いつも、デザートとかティータイムのお菓子とか食わねぇじゃないか。嫌なのか?」
「…俺には必要ない」
刹那には、最低限の栄養を補う以外の嗜好品としての食べ物である「スイーツ」なる物が理解出来なかった。かつては父母と、貧しいながらもお茶の時間を楽しんだ記憶がある。それを血で掻き消したのは、刹那自身だった。戦時下の少年兵にお菓子を楽しむ余裕等なく、いつも眼をぎらつかせていた事を否応なしに思い出す。
「俺には…菓子なんて、必要ない」
それをどんな気持ちでロックオンが聞いたのか、ロックオンではない刹那にはわからない。だがロックオンは仕方なさげに笑って、空いている手で刹那のくせっ毛を掻き回すと、慈しむような瞳で刹那を見つめながら語り出した。
「刹那、3時になったら甘い物が食べたいとか、一定量食事はしたけどもう少し甘い物が欲しいとか思うのは、人間の体がそう言う物を欲しているからだよ」
手袋の下に隠された形の良い指が、刹那の黒髪を絡め取って優しく引っ張る。
「美味しい物を食べたいって気持ちを、無理に抑えるなよ!?百害あって一利無しだからな。それに…俺としては、刹那が美味い物を食べて『美味い!』って喜ぶ所を見たいんだよなぁ」
「何故」
何故、お前は俺が喜ぶ所を見て喜ぶ!?という言外の疑問を乗せて、刹那はロックオンを見遣った。ロックオンは不思議な色の瞳で刹那を見つめ、睦言のように囁く。
「お前は、俺だからだよ」
「!?」
「お前は、俺の運命なんだよ。刹那」
薄い唇が、少年の柔らかい唇を奪う。刹那には、ロックオンの事は解らなかったが、ロックオンの気持ちをわからないなりに丸呑みにするのは、甘い菓子を丸呑みにするのと似ていると思った。

「『豆腐花(トゥーフーホァ)』って言うんだ。豆乳と牛乳で作ったスイーツなんだよ。君はケーキとか好きじゃないみたいだから、こういうのはどうかと思って」
ロックオンに連れられて刹那が食堂に戻ると、アレルヤが控え目な笑顔と共にスイーツ版豆腐とも言えそうな物をガラス椀に盛って差し出した。「誕生日おめでとう。刹那」とも添えて。刹那はそれで自分の誕生日を思い出した。
「後でプレゼントをやるよ。期待してな」
「別にいい」
「そう言うなよ。誕生日にプレゼントが欲しくなるのも、人間の体が欲する事なんだからさ」
「嘘をつけ」
きっぱり言った割には嬉しげな刹那を、ロックオンとアレルヤとティエリアが見守っている。刹那は少しはスイーツを食べるのを好きになるだろうと、三人は何の確証も無いのにそう思った。豆腐花に掛かったサンザシの実のシロップの甘酸っぱい感じがそう確信させてくれるのかも知れなかった。
そして、四月七日は平和に過ぎて行く。


H22.04.06

刹那プレ誕生日おめでとう!
刹那は甘い物苦手(というよりは、菓子に代表されるような平和に慣れない)かなぁと思って書きました。実際はどうなんでしょうね。
おめでとう〜!



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