アレティエ子作り部屋

□ベリータルトの午後。
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幼いベルベット・アーデ…愛しい我が子を初めて腕に抱いた時、アレルヤ・ハプティズムは誓った。この可愛い娘と、この娘を産み育ててくれていたティエリア・アーデの為に、自分は何でもしようと。

「ティエ、ベル、おやつの時間だよ」
トレミー(二号)の台所で四年ぶりに作ったベリータルトを片手に、アレルヤはティエリアの部屋を訪れた。こうして、ティエリアの為におやつを手作りするのも四年ぶりになる。
膝に幼い娘を抱き上げたまま端末作業を続けていたティエリアは、一旦端末の手を休めるとベルベットを下ろして立ち上がる。
「美味しそうな匂いだ。こういうのは久しぶりだな」
ティエリアが真紅の眼を細めて呟く。アレルヤは肩を竦めて応えた。
「久しぶりだから…少し味が落ちたかもね。でも愛情は篭めたから、食べてみて」
「とうさま、とうさまがつくったの?」
「そうだよ、ベル」
「すごーい!すごーい!」
はしゃぐ娘を軽々と抱き上げて、アレルヤは笑った。小さい子供に…それも自分の子供にこんなに喜んでもらえるなんて、自分はなんと果報者なのだろう。
「さ、召し上がれ」
ベルベットを下に下ろして促すと、アレルヤと同じ金の右眼と銀の左眼がふと壁に逸れる。
「きゃー!!!」
いきなりベルベットが悲鳴を上げてしゃがみ込むのに、アレルヤとティエリアは何事かと駆け寄った。
「ベル!」
「どうした、ベルベット!」
ティエリアが拳銃片手に娘を引き寄せる。ベルベットは母親(性別♂)に抱き着いて、壁を指差した。
「かあさま、あれ。あれ…」
「◯★@!」
声にならない声を上げて、片手にベルベットを抱き、片手に拳銃を構えたままでティエリアが硬直する。二人の視線を辿ったアレルヤは、ティエリアのこの部屋の壁に一匹のヤモリがへばり付いているのを発見した。
「あ、アレルヤ」
ティエリアが震える声で懇願した。
「そ、それ、どこかにやってくれ」
「それって、ヤモリ?」
「言うな!」
真っ青になっているそっくりな親子に思わず苦笑して、アレルヤはそっとヤモリを両手の中に捕まえた。ぴぴぴ、と手の中で跳ね回るヤモリを押さえて、アレルヤは恋人と娘に声をかけた。
「外から紛れ込んだみたいだね。ちょっと逃がして来るよ」
「…頼む」
四年経っても相変わらず爬虫類が苦手らしいティエリアが、ベルベットを抱いたまま頷いた。

アレルヤが両手でヤモリを抱えながらトレミーの通路を歩いていると、休憩時間らしいラッセ・アイオンに行き会った。
「どうした?」
「ちょっと、ヤモリが入り込んじゃって…ベルに騒がれちゃいましたよ」
傷の残る顔を笑みに崩し、ラッセはアレルヤに告げた。
「いい顔になったな。何処から見ても、子煩悩な父親の顔だ」
「そうですか?」
「ああ」
アレルヤも破顔した。人として育てなかった自分が人を愛し、人の子の親になれたのが、心底嬉しかった。
出入口を開けると、アレルヤは砂の多い地面にヤモリを下ろした。
「さあ、君も家にお帰り」
のののの、とヤモリは砂地に足跡を付けて去って行った。

「手は洗ったか?」
アレルヤが部屋に戻って来た時のティエリアの第一声はそれだった。アレルヤは「ちゃんと洗ったよ」と手を翳し、また愛娘を抱き上げた。
「ベル、もうヤモリさんは居ないよ。安心していいからね」
「はあい!」
すべすべの頬を擦り付けて来るベルベットに笑うと、すっかり抱き癖の付いた娘を椅子の上に下ろして、アレルヤはティエリアに笑いかけた。
「それじゃ、遅くなったけど、おやつにしよう」
自分達だけで食べずに待っていてくれた大事な者達に、改めて心の中でアレルヤは誓う。この二人を自分は何より大切にしよう。この二人の為なら何でもしようと。

例え、聖母の名前の少女への固着を断ち切れなくとも。

銀のナイフが赤いベリータルトを割った。

H20.11.10
いかん、最後シリアス…。
うちのアレルヤは、ベルベットを「ベル」と愛称で呼びます。ティエリアは「ティエ」です。




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