アレティエ子作り部屋

□赤頭巾と赤の制服。
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ライルが(ちょっとしたニコチン切れで)口寂しくなって食堂に現れた時、そこには先客がいた。
「やあ、お二人さん」
「ロックオン、ご苦労様です」
「ケルディムの射撃の命中率は向上したか?」
穏やかに挨拶するアレルヤとは対照的に、ティエリアは厳しい教官としてライルに接する。ライルはやれやれと肩を竦めて、報告した。
「まあ、87%くらいまでは上がったぜ?」
「そうか。100%になるよう努力を怠らない事だな」
ティエリアはアレルヤの隣に腰を下ろし、正面のテーブルに置かれた白い大皿をライルに向けて差し出す。
「命中率を上げた褒美に、食べていったらどうだ」
大皿にはチョコクッキーとマーブル模様のクッキーとプレーン地に松の実を散らしたクッキーが三列に並んでいた。
「えぇー…これ、誰が作ったんだ?」
「あ、僕が」
「…マジ?」
「アレルヤの料理の腕は、一流シェフ並だぞ」
さりげなく私的パートナーであるアレルヤを褒めて、ティエリアはまた一つチョコクッキーを頬張る。
「美味い」
「ありがとう、ティエリア。もっと食べて?ロックオンもどうぞ」
「あ、ああ。ありがとうよ」
さりげなくもラブラブな二人から眼を逸らしてマーブルクッキーを口にほうり込むと、絶妙な甘さとサクサク感が口に広がった。
「なーるほど、こりゃ美味いな」
「…ありがとう」
少年のようにはにかむアレルヤに、横からティエリアが呟きかけた。
「この前の、胡桃入りのクッキーも美味かった。また作ってくれ」
「わかったよ。ティエリア」
金の右眼と銀の左眼が等しく微笑む。その視線に真紅の双眸の視線が愛しげに絡んだ。ライルは二人だけの世界にお邪魔するのは阿呆らしいので早々に撤退するつもりでいたが、ふと、彼らの愛娘がいない事に気付いた。
「そういや教官殿、あんたらの娘はどうした?」
「ベルベットは今、任務中だ」
「任務中?」
また一つ、松の実のクッキーを食すティエリアに代わって、アレルヤが照れ笑いながら説明する。
「ベルには赤頭巾ちゃんのお使いものに行って貰ったんですよ」

スメラギ・李・ノリエガは支給された制服を広げたり畳んだりしながらまだ思い悩んでいた。戦う意味、戦う意志を再び見つけ出した…気がする。仲間達はそれまでの過程を黙って見守り続け、時に助力してくれる。
けど、気恥ずかしさと運命を受け入れる重さが少しだけ怖く…もある。
スメラギが何度目かになるが制服をきちんと畳んだ時、コンコンと扉を叩く音がして、幼い呼びかけの声がした。
「すめらぎおねえちゃま〜♪」
「あら、どうしたの?ベルベット」
プシュー、と扉を開けて下を見ると、小さなベルベット・アーデが三種類のクッキーをレースペーパーに包んで詰めたバスケットを持って笑いかける。
「あかずきんちゃんのおつかいなの!」
「あらまあ、本当に赤頭巾ちゃんね」
ベルベットの小さな頭は手製の赤頭巾(母親のティエリアは繕い物等壊滅的に出来なかったので、十中八九アレルヤが作ったに違いあるまい。つくづく手先器用な父親である)に覆われていて、普段着の白地にピンクの水玉模様のスモックの肩を保護するように掛かっている。ちっさいティエリアが赤頭巾しているような外見だが、ちょっとした表情と色の異なる瞳がアレルヤに似ているこの三つの娘は、抱えていたバスケットをスメラギに差し出す。
「はい、とうさまのくっきー。とってもおいしいのよ♪」
「ありがとう、ベルベット。ちょっと寄ってく?」
「はあい〜」
とてとてと入室して来るベルベットから受け取ったバスケットをベッドに置いて、スメラギは備え付けの冷蔵庫から子供でも飲める物を探したが、結局水割り用の美味な天然水しか見付からなかった。
「はい、ベルベット。美味しいお水よ。綺麗な山の一番綺麗な所から採れたお水なの」
「わあーい、ありがとう、すめらぎおねえちゃま!」
氷を浮かべた天然水をコクコク飲むベルベットは平和そのものの顔をしている。それが、スメラギには少しだけ辛い。いつ戦火に晒されるかわからないこの母艦にこの娘を連れて来たのはティエリアだろう。娘を若い父親−−−囚われの身だったアレルヤに会わせる為にそこまでしたのだ。その決意の激しさが眩しい。
「はい、おねえちゃま。ちょこくっきーめしあがれ♪」
「ありがとー、いただくわね」
四年ぶりにおすそ分けして貰ったクッキーは、やはり美味だった。もふもふとクッキーを頬張るベルベットに悪戯心を誘われて、スメラギは意図的に偽悪家の表情をした。
「ベルベットは気の利くいい子ね。気配りの出来る大人な子ね。でも、もっと子供らしくしてもいいんじゃない?」
「こどもらしくって、どういうことー?」
首を傾げるベルベットに、スメラギは両手をお化けのように掲げて脅しに掛かった。
「例えば、新入りの私をもっと怖がって用心するとかね…私が赤頭巾ちゃんを食べちゃう狼さんかも知れないわよ!」
きゃー、と笑ったベルベットが真っ直ぐな眼でスメラギを見上げて来る。
「だいじょうぶー。かあさまがとれみーにのってるひとは、みんなかぞくでなかよしだってゆってたの。だから、しんいりのひとでもしんぱいいらないの!」
「そう…ティエリアがそんな事を…」
スメラギは両手を下ろした。四年前までなら考えられないティエリアの言葉は、彼の成長を物語っていた。きっと、この無垢な娘の存在が彼を成長させた一因で、守るべき者なのだろう。
その気持ちに手を貸すのは、きっと仲間としては当然の事だろう。
スメラギは赤ワインを片手にクッキーをベルベットと手分けして食べ終わると、自分用のつまみから適当な物を選んでバスケットに詰め、ベルベットに手渡した。
「はい、お使いご苦労様。父様と母様にこれをお返しに渡してくれる?」
「はあい〜♪」
「ありがとう。いい子ね」
スメラギは微笑んでベルベットの紫の髪の毛を撫でた。恋人のエミリオが生きていれば、自分達にもベルベットと同じ年頃の子供がいたかも知れない。その存在しない子供を守りたいようにベルベットの事も守りたいと言ったら、愚かしいと思われるだろうか。

「とうさま、かあさま、ただいま〜」
「お帰り、ベルベット。お使いは出来たか?」
「ちゃんとできたー!」
母親の膝にちんまりと座ったベルベットは、父親に「偉かったね。いい子」と頭を撫でられてご機嫌だった。
「君がクッキーに込めた思惑は、彼女に届いたろうか」
「多分、届いたと思うよ。強制とかでなく、ね」
恋人という意味合いでパートナーであるガンダムマイスター二人が、美貌の戦術予報士に望んだのは、彼女の意志で戦う意味を見つける事。その願いは届いただろうか。
母親の膝の上で、はしゃぎ疲れたベルベットはうとうとし始めていた。

数時間後、皆の前に姿を現したスメラギは、丈の短いピチピチの制服を着ていた。その勇気をくれたのはあのクッキーなのか、クッキーの運び手の赤頭巾ちゃんなのか、それはスメラギだけの秘密である。

H21.07.27
メル友のTomokoさんとのヲタメールから出来た話です。ありがとうございました!
あんまりアレティエでもない気が…(汗)。




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