アレティエ子作り部屋

□兎とテディベア、その後。
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そのピンクの兎のぬいぐるみをベルベットに与えたのに、たいした意味はなかった。ティエリアはぬいぐるみで遊んだ経験はなかったが、幼児にはこうしたふわもこした動物型の玩具が必要なのだと色んな文献で知っていた。
「かあさま、ありがとう!」
だから、ベルベットが思いもかけず大喜びした時は、ティエリアの方が驚いたものだ。ティエリアの幼い娘は、なんと生き生きとした情操の持ち主なのだろう。
だからこそ、うささんとベルベットが名付けて可愛がっていたそのぬいぐるみの耳が破けてしまった時、ティエリアは迷わず「捨てなさい」と言ったのだ。お気に入りのぬいぐるみがただのゴミになってしまう様を見るのは、ベルベットの為にならないだろうと信じて。

「しかし、それも結局、ベルベットの友達をただのゴミに変えてしまうだけの行動だったな。あれには可哀相な事をした」
「ティエはベルの事を思って「捨てなさい」って言ったんでしょう?複雑な心理だけど、ベルもきっと分かってくれると思うよ」
「君は僕らに甘いな、アレルヤ…」
素肌を絡ませ合ってベッドに横たわる二人は、互いの熱が引いて行く身体を慰撫しつつ言葉を交わしていた。
「それにしても、ベルベットはあのぬいぐるみを何処に隠していたんだ?」
「このベッドの隙間だよ。間隔が狭いから、ベルのお手々じゃないと入らなかったみたい」
ティエリアは真紅の眼をぱちくりさせて、私的パートナーの苦笑する顔を見上げた。
「…道理で、このところ掃除しようとするとベルベットがちょろちょろ邪魔すると思った」
「ベルはうささんを守りたかったんだね」
金の右眼と銀の左眼が優しい笑みを浮かべる。大きな掌がティエリアの滑らかな頬を撫でた。
「ベルが言う事を聞かなかったって怒らないでね、ティエリア。彼女も必死だったんだろうから」
「ああ、分かっている。叱りはしないさ。なかなか独立独歩の精神の強い娘だ」
心底感心したように言うティエリアを抱きしめて、アレルヤはちょっとだけ溜息を吐いた。
「でも、兎だからうささんって言うネーミングセンスはどうかと思うけどね…。安直過ぎない?」
「何を言う!兎だからうささんという簡潔な名前を付けるセンスは、非凡なものだぞ!」
むきになって言うティエリアに、アレルヤはまた苦笑して細い肩を宥めるように抱いた。
「はいはい、分かったよ。…君も案外親馬鹿で、安心したよ」
「そんなに愛情に溺れている訳ではない。娘の才能を認めているだけだ」
きまじめに語るティエリアの額にちょんと口付けたアレルヤは、優しい眼をして囁く。
「ありがとう、ティエ。あんなに可愛い娘を僕と君に与えてくれて」
ティエリアは白い指でアレルヤの頬を辿り、唇に触れる。指先に口付けたアレルヤは、起き上がってティエリアを抱き、接吻する。
ティエリアは甘く吐息し、アレルヤの胸の中で笑った。
「優しいテディベアが増えた。アレルヤ、君と、ベルベットも抱いて眠れるオッドアイのテディベアだ」
「ティエリア、幸せ?」
「ああ、幸せだ」
何度も接吻を交わして、漸く身を離したアレルヤは、照れ臭そうにティエリアの額に額を合わせて呟いた。
「そろそろ、ベルの所に戻ってあげないとね。このまんまじゃ、えっちばっかりでネグレクトしちゃうイケナイ親になっちゃうよ」
「まったくだな」
二人は笑って、床に散らばる衣服を身に付け始める。満足感と幸福感は、メレンゲみたいに二人の中で膨らみ続けていた。

H22.08.25

「兎と優しいテディベア」の続編。可愛い娘に関してのピロートークです。
こうしてたびたび二人きりの時を持つのは、育児放棄と言われないかしら…(汗)。



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