アレティエ子作り部屋

□ベルたん929!
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トレミーの厨房に積極的に出入りするのは、CBのメンバーの中でもアレルヤくらいのものである。
9月29日もアレルヤは、食堂のテーブルに箱ごと並ぶ新しく届いた食材を前に張り切っていて、ティエリアの膝の上に座るベルベットが不思議そうにそれを見ていた。
「ベル、今シーズン最後の桃だよ」
アレルヤが片手で差し出した桃に、ベルベットは父親と同じオッドアイを輝かせて、止める間もあらばこそ素早く桃を取り上げてほお擦りした。
「もも〜vv」
しかし、途中でほお擦りを止めると母親似の可愛い顔をくしゃくしゃに歪め、いきなり桃をぶん投げた。
「いやー!」
「ベル!」
「ベルベット、食べ物を粗末に扱うんじゃない!」
アレルヤが慌てて間一髪のところで桃を受け止め、ティエリアが娘を咄嗟に叱る。だが、若い両親は娘の顔を見て吹き出す寸前の顔と怪訝な顔になる。
なんと、ベルベットのふくよかな頬に桃の皮の毛羽がびっしりくっついていたのである。
ベルベットはむずがってばたばた手足を振り回す。
「いやー!ちくちくするぅ〜!」
「な、なんだこれは?どうやったら取れるんだ?」
オロオロするティエリアに苦笑したアレルヤが、パートナーと愛娘を安心させようと説明する。
「心配ないよ。セロテープでぺたぺたすれば取れちゃうよ」
「私、セロテープ取って来てあげるわね」
クスクス笑って見ていたフェルトが他所の部署にセロテープを借りに行く。ミレイナはぐずるベルベットの無事な方の頬っぺたにぷにーと指先を押し付けた。
「桃さんはほお擦りしちゃダメなのですよ〜、ベルちゃん」
「う〜」
ベルベットのむくれ顔が可笑しくって、ついつい笑みを誘われる一同のところに、セロテープを抱えたフェルトが帰って来た。アレルヤは「ありがとう、フェルト」と礼を言ってセロテープを切り、ベルベットの頬っぺたにぺたぺたと引っ付けて毛羽を取り始める。やり方を心得たティエリアも、下の方の毛羽を取るべくセロテープでぺたぺたし始める。
「よし、取れた」
「大丈夫だ。綺麗になったぞ、ベルベット」
両親に代わる代わる頬っぺたを撫でられて、ベルベットもようやくぐずるのをやめた。アレルヤは優しく笑うと、娘に告げる。
「ベル、桃さんに美味しい仕返しをしようか」
「おいしいしかえし?」
「桃さんを食べちゃうんだ」
「たべるー!」
眼を輝かせるベルベットをぎゅっと抱きしめた後、アレルヤはテーブルの上に置いた桃を再び手に取って言った。
「それじゃ、父様はベルの為に桃さんを美味しく料理するね」
「一応、顔を洗おうか、ベルベット。それから…いい服に着替えような」
「はあい〜」
ティエリアがベルベットを連れて食堂を出て行くと、アレルヤは腕まくりしそうな勢いで食材入りの箱を片手に厨房へ入って行った。フェルトとミレイナがアレルヤにエールを送る。
「頑張ってね、アレルヤ」
「ハプティズムさん、ファイトなのですぅ!」

ベルベットにダメージを与えた桃は、コンポートになって誕生日のケーキの上に花弁状に並べられ、スポンジとスポンジの隙間に生クリームと一緒に詰められていた。桃の花弁の中央には苺がいっぱい並び、三本の蝋燭が立てられている。
「おいしそう!」
ベルベットがはしゃぐ様を、周りの大人達は嬉しげに見ていた。ベルベットの両脇には、トレミーの大人達全員からのささやかな贈り物が山積みになっている。
ベルベットがふーっと勢いよく蝋燭を吹き消す。「全部消えた!」と誰からともなく声が上がった。
9月29日の夜は更けて行く。

「楽しかったね、ティエ」
「娘の誕生日なのに、君がそんなに楽しんでどうするんだ?」
「ベルが生まれてくれた日だから嬉しくって、楽しいんだよ」
ベルベットは両親からの贈り物…白とピンクのドットチュールで出来た綺麗なリボンの髪留めを抱いて熟睡している。
「ありがとうね、ティエリア。この娘を生んでくれて」
アレルヤが娘と同じオッドアイでティエリアを見つめると、ティエリアは微笑んでアレルヤの胸に身を寄せた。
「産むのは大変だったが、君がベルベットの生まれたのをそんなに喜んでくれるなら、あの苦しさも無駄ではなかったな」
「そんなに難産だったの?」
「破水が先に来て、陣痛促進剤を打たれながら一日掛かりだった。それで、その…」
「?」
ティエリアが口ごもるのにアレルヤが不思議そうな顔をする。ティエリアは意を決して言葉を口にした。
「破水したのは、アリオスの起動テスト中だったんだ…。もちろん、パイロットスーツを着ていたからシートには染みずに済んだが…」
アレルヤが眼を丸くしたのに、ティエリアは赤くなった。アレルヤは小さく溜息を吐いて、ティエリアを抱きしめ直す。
「臨月にそんなお仕事してたの?」
「他に人員がいなかった」
「まったく…」
アレルヤは笑って、ティエリアの額に額を合わせる。
「本当に…ありがとう、ティエリア」
ひとしきり接吻に溺れた二人は、傍らで眠る愛娘に優しい視線を注いだ。
この娘がどんな人生を送るのか、まだ分からない。だけど、少しでも幸せで充実した人生を送れますように、と、歳若い両親は祈らずにはいられなかった。

H22.09.19

まさにこれを書いている本日、私の誕生日です。
アレティエのついでに生まれたようなベルちゃんですが、幸せな人生を送れますように!



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