宝箱

□だから言ったのに
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1.だから言ったのに

麦わら海賊団は、目下絶賛売り出し中でハンパなく血気盛んだ。
従って、場合によっては一日複数のバトルなんてのも大いに可能である。
アサイチで行き会った同業者を叩きのめし、午後は海軍に仕掛けられて逆にこてんぱんにする、とか。



だがちゃんと補給はする。
バトルの合間にはメシをたらふく喰う。
夜ともなれば理由をつけては宴を張る。
これにより、失われた体力は回復され、かわりに溜まったストレスはうまいこと吐き出されるのだ。
そして補給全般に深く係わっているのが、麦わら団の料理人サンジである。



麦わらのメンバーは皆タフなのだが、なかでもサンジは全く疲れを知らない。
ように見えた。



バトルモードオンのときには他のメンバーとほぼ遜色なく活躍する。
そして皆のバトルモードがオフになると、サンジには別のスイッチが入る。
そこから先、補給モードの担い手は事実上サンジ一人となる。
だが本人は特にそれを負担に思う様子はなかった。
レストランで四六時中、大人数の客に出す料理を作り続けていたのに比べれば、これしきのことは雑作もないのだと。
本人が言うのだし、回りもそう言われればそんなもんか、と思う。
そうして何かの記念日ともなれば、皆は宴会の中身に大いに期待を寄せた。
サンジがそんなときは念入りに腕を奮うのを皆よく知っているからだ。
それがルフィの誕生日なら尚更だった。
ルフィは麦わら海賊団の船長で、普段はあんなだが、仲間達に一目も二目も置かれそして皆から愛されている。また同時に、料理人を奮い立たせるだけの大喰いでもある。



そわそわと期待に満ちた雰囲気のなか、サンジは船長誕生日大宴会にむけて、いつもより早めかつ念入りに準備を開始した。






*****






イベントの全てが終了し、やっと掴まえた逢瀬のチャンス。
記念日のえっちというのは気合いがはいるものと相場は決まっている。





「‥サンジ、」


甘く湿った吐息が、闇の中で密やかに名前を紡ぐ。
答えるかわりに、繋がったところが熱を帯びるほど激しく出し入れを繰り返した。
ぁあん、と鼻にぬける声がして、ルフィの内側が痙攣するようにぎゅぅっと収縮する。


うわ。やばい。


押し包む内壁を、急激に膨らんだ体積が押し返すのが自分でもわかる。
ヌルヌルしたキモチのイイここを、このまま今すぐガツガツと擦りまくりたい。
その衝動を逃がすことが今夜のサンジはどうしてもできなかった。
いつもなら効くコントロールが今日は全く役に立たない。
理由はわかっている。
疲れているのだ。
宴会その他諸々、ここ数日さすがに張り切りすぎた。
突っ走りたがる衝動に、手綱をかけて引き絞るための体力が残っていない。



チクショウ、と歯ぎしりをしたのが聞こえたのか、腕の中のルフィが薄く目を開ける。
「どした?」という顔だ。
でも意識の半分は快感の波間を漂っているようでもある。
潤んだ目と上気した頬を遣る瀬無い気分で眺めてから、サンジはゆっくりとルフィの肩に顔を埋めた。
耳元で、


「悪りぃルフィ。出してぇ、んだけど」


と切り出す。



今日はコイツの誕生日だから。
いつもの二倍も三倍も時間をかけて、たっぷり可愛がって一杯気持ヨクさせてやりたかったのに。
頭ではそう思いながら、腰から下は別人のように逸っているのを感じてサンジはいたたまれない。
スマン、というかわりにぎゅっと抱きしめる。
するとルフィの方からもサンジの背中に腕を廻してきた。


「いいぞ、サンジ」


小さいけれどハッキリした声だった。
ルフィ、と呼んで顔を見ようと上半身を持ち上げかけたが、それは強い力で止められた。


「いいんだってば、」


シて、サンジ。


と耳で聞き分けたと同時に、なんとか掴んでいた手綱はあっという間にサンジの手を離れた。
震える手でルフィの両膝を掴み、もどかしげに大きく開かせる。


「あ‥っ、や、」


普段サンジからは丁寧にしか扱われていないルフィは、一瞬怯んだように身じろぎした。
その仕草が余計にサンジを煽る。
あきらかに馴らしが足りていない場所に、そのまま強引に貪るような抽送を続けた。
ルフィは短く荒い呼吸をして、後ろ手にシーツを握り締めている。
眉を潜めて堪えている表情がたまらなくエロくて、サンジは慌てて目をつぶった。
それでも気がついたときにはいつもよりずっと早くもう崖っぷちに立っていて。
奥に深く挿したまま強く突いた途端に、いきなり射精してしまった。
背中を固くし、気持ちよさと後ろめたさが7:3くらいな気分で注ぎ続ける。
出し尽くすのにはいつもより時間がかかった。
ようやく背中の強張りも解け、サンジはそのままパタリとルフィに覆いかぶさった。


桜色に染まった胸に頬をつける。
はぁはぁと弾んだ息はなかなか収まらない。
ルフィは掴んでいたシーツを離し、手を上げてサンジの髪をそっと撫でた。


「‥‥」


のろのろと腕を上げ、サンジは髪をなでる手を取って指を絡めた。
引き寄せて指先に唇を押し当てる。
そうして顔を上げないまま、サンジはちゅ、ちゅ、と絡めた指先に物憂げなキスを繰り返した。



「おーいサンジ、」


頭の上からルフィの声が降ってくる。
顔を上げずに、おぅ、と生返事をすると、


「今日はまたえらく早かったなー、サンジ疲れてんだろ」


とサックリとやられた。
特に不満そうでもなく声の調子はのんびりとリラックスしている。
だが「お見通し」にされたサンジは少し口惜しい。
なので黙って指先を弄んでいると、ルフィはそのまま機嫌のいい声で


「だから言ったのに」


と続けた。
言いながらサンジの手をきゅっと握ってくる。
その温もりはサンジの傷心をほっこりと癒した。
しかしルフィの発言そのものには心当たりがない。
ルフィの胸から頭を起こし、シーツに片肘をついて体を支えた。
握られたほうの手はそのままに、ルフィに聞きなおす。


「言った、って、なにを?」
「サンジ、おまえたまには休めって」
「‥は、‥」


本当だとしたらものすごく有難いお言葉だ。
だがそもそもルフィが自分に休めというのはなんだろう。
ルフィを含め全員に振舞う食事作りのことか、ルフィが船長を務める麦わら海賊団を守り名を上げるために戦うことか、それとも、こうやってベッドで愛情を深め合うことなのか。
どれに休みをくれるにしろ、有難くて泣けそうだ、とサンジは思う。


それにしても、サンジはその有難くも胸を痛くする言葉を、自分の耳できいた覚えが全くなかった。


「‥それ多分言ってねぇぜ。キャップ」


内心の動揺を抑えつつ主張してみる。
するとルフィは、あり?と首を傾げた。


「そうだっけ?」
「そうそう」


だってそんなん言われたら。
オレぁショックで絶対忘れるはずねぇ。


「ヘンだな、おれサンジに言わなくちゃ、ってずぅっと、」
「あー、これから気ぃつけるから。もう言わんでいいぞ」
「‥んー‥」
「お気遣いは有難くいただくぜ、おまえイイ奴だな、ルフィ」



努めて軽く受け流すように言いながら、サンジはルフィの耳の下にキスをする。
ルフィはおーと言ってくすぐったそうに首を竦めた。









そしてその後サンジはマイ業務の見直しを進め、体力の無駄遣いを出来る部分から省くように工夫した。
方法としては、重量のある食材(じゃがいも・小麦袋等)運搬の力仕事あたりを下請けに出す、などである。




ちなみに、それら力仕事をもっぱら請け負わさせたのが剣豪だったのは言うまでもない。

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