短編6

□第十八
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「ねぇ、本当に行ってしまうの?」


真っ黒な背に問いかける。彼は私へ振り返らず、歩みを止めただけ。我ながら何とも馬鹿なことを聞いたと思う、彼が何て答えるかなんて分かり切っているはずなのに。
彼は答える。
まるでそれが当たり前のように、彼の人生がそれだけのためにあったかのように。


「愚問だな。」


どこが愚かな問いなのだろうか。彼は今から死に行くというのに、自分のためでなく弟を勝たせるために。その時まで影となり、障害になる他の参加者を暗殺し、そしてその時が来たら死ぬために。
本当にそれでいいのか、それで貴方は満足なのか。
その言葉が何故か喉の奥につっかえて出すことができない。


「話はそれだけか?」


待ってくれと手を伸ばしても、その手は届かず空を掴み彼は止まっていた足を再び動かしていく。

わかっている、私の声など彼に届かないことは。 わかっている、もう彼と会うことはないのだと。

わかっているのに、声がでない、手が伸ばせない、足が動かない。
彼の名前さえも呼ぶことが出来ない。

私は彼の名前を呼んだことなど一度もなかった、そして彼も私の名を呼んだことなど一度もなかった。
可笑しな話だ。幼い頃から共に育ち、過ごしてきたというのに、お互いのことをよく知っているというのに、お互いに名前を呼んだことさえないなんて。


「待って、ユリウス」


やっと、初めて口に出した彼の名はすでに遠くに消えてしまった彼の耳になど届くはずもなく、私はただその場に崩れ落ちるしかなかった。
やっと気付けた、いなくなってやっと気付いた。私は、貴方と友人になりたかったのだ。



 ・・・< 私と貴方の関係に名をつけるなら >・・・



馬鹿な話で笑い合いたかった、ふざけて冗談を言いたかった、名前を呼んで笑いあって・・・・・
そんなことすら、私達はしたことすらなかったのだ。




 後書き
ccc、ユリウスの友人発言にガタタッとなった結果。
デレウス美味しかったです、うめぇ
執筆時期 H25,04/28
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