短編3

□さぐるもの
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「・・・・相も変わらずあそこは気持ち悪いの空気だこと」


上り坂、ではなくその先にあるであろう一軒の教会を睨みつける女。
見えなくても、離れていても感じるイヤな感じ。目を凝らせば、彼女の目から見えているのは坂の奥の禍々しい黒い淀み。


――あそこは嫌いだ。


教会と言う、本来あるべき神を敬う場としての神聖さを全く持って感じられず、むしろあそこは神といっても死神の住処のような死の臭い。
坂の先を睨みつけていた視線を地面に落とし、女は目を瞑る。


――本来なら私もあそこにいたのかもしれない。


あの時、とある場所で、彼に出会わなければ、幼いながらに何かを感じ病室を抜け出さなければ、今は亡き養父に引き取られなければ、親も家も失った幼子の末路はきっとあの教会。あの死の臭いの一部となっていただろう。


「・・・・・・前よりも淀みが強くなっている。」


目を瞑ると瞼の裏に浮かぶのは、感じるのは、教会にいるナニカの気配。


「“人”だったものが1つ、“人”であるはずのものが複数、“人”に似て“人”ならざるものが2つ、・・・・新しい気配が1つ増えている。召び出したのは誰・・・・?」


もっと近くに寄ればもう少し判るかもしれないが、これ以上あそこに近づきたくはない。
新たに感じた淀み、数日前には感じられなかった、2人目の“人”に似て“人”ならざるものの気配。しかしあの教会でそれを召び出した気配は感じられない。新たな気配に似た気配を感じたのは、あの双子館の・・・・・


「っ・・・・・時間か」


耳鳴りが鳴り響き、小さな鋭い痛みが頭の奥に走る。そろそろ休まなければ。静かに深呼吸を1回、カチッとスイッチを切り替える。
視界が真っ暗になり、目を開ける。今まで感じていた嫌な気配も淀みも、僅かな残滓を残すだけ。もうこの距離からでは教会からは何も感じることは出来ない。
ただ、朝の静けさと詰めたい空気のみが感じられ、白い息を吐きながらポケットから取り出した地図の教会があるであろう位置に書かれている文字に付け加えるようにペンで文字を書き連ねる。
そして地図を再びポケットの中にしまうと、かけてあったヘルメットを被り、愛機のバイクにまたがりエンジンをかける。


「さて、会社にそろそろ行かないとね」


ハンドルを握りながら、もう一度坂の奥を、その先にあるであろうものを見つめる。
あれから感じるそれを、私は知っている。10年前の赤いソラと黒いツキによく似た・・・・きっとあそこが1のはじまり10の終わり。
10年前何があったのか、これから何が起こるのか、私にはそれを知る権利がある。



 ・・・< さぐるもの >・・・



きっと開幕はそう遠くない。





 後書き
前回の「非日常の前の日常」の続編です。
どうして少しでもランサーとからませたくなってしまう、僕の悪い癖(苦笑)
執筆時期 H24,02/08

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