短編4

□第十二弾
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―――上条当麻は今までの記憶を失った―――


冥土帰し<ヘブンキャンセラー>からそう聞かされたとき、私の視界は真っ白になった。
私の中に蠢いた感情は絶望ではかった、多分それは悲しいという感情。私は何が悲しいのだろう?当麻が私を忘れた事?当麻が今まで私との思い出を失くしてしまった事?
いや、そうじゃない。
きっと当麻は記憶が無くなったことを隠すだろう、そして今まで通りの“上条当麻”で在るように接してくるはず。私はそれが悲しい。あいつは優しくて馬鹿で誰かが悲しまないように嘘を吐く、それが人を悲しませるという事にも気付かないで。



 ・・・< リセット >・・・



道路の真ん中で立ち尽くす私の姿はとても可笑しくて、すれ違う人々の視線を浴びながらも私はこちらへと歩いてくる上条当麻の姿に戸惑った。
私は彼のどう接すればいいのだろう、もしかしたら彼は記憶を失っていないかも、なんて幻想を抱く。そうだきっと彼は私に気付いてくれる、そしたら無理矢理クレープでも奢ってもらおう。
あと10m、5m、1m・・・・そして彼は私の方にチラリと視線を向けただけですれ違った。


「あぁ・・・」


いろんな感情が渦巻き、幻想が砕け散り、溜め息に変わる。


「こらっ、当麻!すれ違ったんなら声くらいかけなさいよ!!」


あくまでいつも通りに声を掛ける。そして、予想通り当麻は一瞬戸惑ったような表情をするもすぐにソレを隠して笑顔になる、嘘吐きの笑顔に。


「よ、よぉ。悪ぃ、気付かなかったよ」


気付かなかったんじゃないんでしょ?知らなかったんでしょ?覚えてないんでしょ?
誤魔化さないでよ、何年アンタと一緒にいると思ってるの?嘘吐かないでよ、何年アンタの親友でいると思ってるの?私がそんな笑顔で騙されるはずないじゃない。喉から出そうになる言葉を必死に飲み込むと、私も嘘吐きの笑顔を浮かべた。
貴方が私を騙すなら、私も貴方を騙すよ。多分、きっとそれが一番いい。
知ってしまったなら知らなかったことにすればいい、見てしまったなら見なかったことにすればいい、私はずるいから。こんな歪な関係すらも壊れてしまうのが恐いから、私はずるくて臆病だから。






 後書き
禁書目録編から吸血殺し編の間の話し。
だいたい、上条当麻退院後みたいな感じ。
執筆時期 H22,02/08
修正時期 H23,08/28
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