短編4

□第六弾
1ページ/4ページ




「藍・・・・染・・・・・っ」


今でも覚えているあの時の事を、今でも時折疼くあの時の傷が、思い出すと震えが止まらない。ソレは憎しみか恐れなのか。
可笑しい話だ、あのときに私は全てを失ってココに生るというのに



 ・・・< どうして気づかなかったんだろう >・・・



「なーに、コソコソしとるんや」


聞きなれた声に後ろを振り返るとそこに居たのはやはりというべきか見慣れた仲間の姿。全くいつから居たんだか、気付かれないようにこっそり抜け出すつもりだったのに。
周りを見直すといつもなら直ぐに寝ている奴も起きていて、きっと皆最初から起きていたんだろう。


「あーぁ、最初から気付かれてたみたいだね。全く、必死に隠してたのも意味なかったのか。・・・・皆には悪いけど、私は行くね。」


決意を込めて皆を見つめる。脳裏に思い浮かぶのは倒れていく仲間達、必死に叫んでも届かない思い、背後から迫る死期。
魂が疼くもう一人の自分の影、溢れ出る虚としての自分。そして笑顔の中の、当たり前のように返された裏切りの言葉・・・・・


「私は、私はあいつ等を・・・藍染を許せない。今すぐにでも私の手で止めを刺したいよ。」


そうの本能に従うのならば私はここに居るべきなのだろう、それが一番の正しい堪え。


「けど、でも、過ごした時間は皆より長い分わかるの。きっとあの子達は・・・仲間を、織姫を助けに行く。馬鹿な話しでしょ、助けられるなんてとっても分が悪い賭け。でもその馬鹿が私にとっては面白いほど心地よい。」


必死に私達を助けようとする浦原隊長の姿を残る意識と虚ろな瞳で馬鹿だと思った。でも、その必死な姿がとてもかっこよくて、まるで彼らのように。


「だから私も馬鹿になってみようかなーって、・・・・ごめんね?」

「誰がンな事で謝罪せぇゆうた。謝るンなら勝手に行こうとしたこと謝らんかい。」

「・・・・止めないんだね。てっきり止められるかと思ったけど。」

「阿呆。そんだけハッキリ言われられて止められるわけねーやろ」


もう一度皆と目を合わせる。あの時私は何かを失った、代わりに何かを手にした。失ったものは大きすぎて、もうなんだったのかも覚えていない。けれどわかるのは生きているということ。
このまま皆といるのもいいのかもしれない。そうすれば私の手で決着を付けられるかもしれない。だけど、どうしてもやらなくちゃいけないことがあるってことがわかったから。


「ありがと、じゃぁ・・・・行ってくる。」

「死ぬなよ」


わかってる、言葉の代わりに満面の笑みで答える。そのまま、もう後ろを振り返らない。進むのは前だけでいいのだから。


「行ってきます」








「お久し振りです、お待ちしてましたッス。」


夜道を走りながら向かったのは[浦原商店]と書かれた一見少し古そうな店。そこで立っていたのは帽子に隠されながらも鋭い眼光を潜めた男。その男を私はよく知っていた。


「お久し振りです、浦原隊長。またお世話になっちゃいますね。」

「・・・・・・・スミマセン。」

「・・・・・・・・・?」

「本来なら皆サンの存在がばれるような事は避けたかった、何処かで隠れて居て欲しかったんスけど・・・・・・・本当によろしいんでスか?」

「えぇ。それに、遅かれ早かれ、皆我慢強くなんてないからケリはちゃんとつけに行ってると思いますよ。」

「ありがとうございます、それと・・・・すいませんでした。」

「・・・・馬鹿な人。誰も貴方の事を、貴方達の事を恨んでなんていないのに。むしろ・・・・」

「さぁ、黒崎サン達がお待ちッスよ。」


彼は今も自分で自分に叱咤している。そんな事をしても無駄だというのに。
あの時、虚化の進行が遅かった私は薄れ往く意識の中で必死に私達を助けようとしている彼を見た。私たちの前で静かに頭を垂らし謝っていたことを私は知っていた。皆もそんな彼の姿は知らなかったとしてもどれだけ彼が私達を救うために頑張ってくれたかを知っていた。
だから、誰も彼をことを恨むなんてことないのに。なのに貴方だけは自分を今も戒めて。自分に罪をつけて、許されることを恐れている。


「・・・・・・・・・ハァ、本当に馬鹿な人ね。」


久し振りに見る彼はとても寂しそうであえてそれに気付かないように店の中へと入っていった。






 後書き
仮面の軍勢夢主人公。
ちなみに出発前の最初のセリフは平子。
その性か関西弁ばっかのせいなのか、平子と話してるとしか考えられない。
執筆時期 H21,03/28
修正時期 H23,08/2828
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ