短編3

□どうか神よお許しください
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外は夕闇色、昼と夜の境目の橙と紫の混純とした世界が教会の窓から伺える。
あと数時間もしたら世界は闇に覆われるのだろうと明るい教会の中で、男は思う。先日あっけなく消えた印から感じた微かな痛みに眉を顰める。


キィッ


教会と外を隔てる大きな扉が開く音。その音に男が振り返れば、扉の傍に立つ1人の女性と目が合う。
女は軽く会釈をし苦笑ぎみに「こんにちわ」と笑い、教会の祭壇、壁に掲げられた十字架を一瞬見上げると、男へと再び向き直る。


「いきなりで申し訳ないのですが、神父様。私の懺悔を聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」

「えぇ、構いませんよ。ここは教会、何人も受け入れ罪を許す神の場です。」

「感謝します、神父様。どうか私の罪を聞いてください。」



 ・・・< どうか神よお許しください >・・・



「神父様、私は人のものを奪ってしまったのです。」


女は語る、私はものをとってしまったのだと。女は語る、それは他の誰かのものだったのだと。
男は、胸に十字架のネックレスを掲げる神父は女が罪を喋るのをただ黙って聞いている。それがその男の神父としての役割。


「奪ってしまったといっても、きっかけは偶然と偶然が重なって私はそれを拾っただけだったのです。そして私はそれを拾ってから、自分のものにしてからそれが他の誰かのものであったことが分かったのです。本来なら拾いものですし、本人に返すのが道理だとは思うのですが、私はその誰かにそれを返すことが出来ないのです。いえ、正確には返したくないのです。返す気など毛頭なくなってしまったのです。」


あの出会いは運命だったのかもしれません。目を閉じながら女は語る。


「神父様、わたしはあれを気に入ってしまったのです。もし前の所有者が返せと仰ってももう返すつもりがないほどに好きになってしまったのです。返す気も譲る気も奪われる気もないのです。」


徐々に開いていく女の瞳は、決意を持った意思ある瞳


「もう、誰にも渡す気などない。例え前の保持者であろうと、いえ特に前の保持者にだけは。令呪は奪わせない、ランサーを二度も貴方なんかに従わせなんてするものですか。」


女は真っ直ぐに神父を見つめる。

この目は、この真っ直ぐな瞳を私は知っている。10年前に死闘を繰り広げた衛宮切嗣という男と、つい先日に最後のマスターとして出向いた衛宮士郎という少年によくに似た真っ直ぐな瞳。あぁ、そういえばあの男はその後少年と一緒に少女も引き取ったと聞いていたが、なるほど彼女が・・・・。
つい先日、ランサーを、サーヴァントを使役するための令呪を刻んでいた手が微かに痛み出す。目撃者を消すために向かわせたランサーとのラインが突如として消え、そして令呪もまた消えた。驚くほどあっけなさ過ぎるそれに、ランサーは消滅したのではなく何者かに奪われたのでは・・・と考えていたがまさかその考えが当たっていたとは。

予想外の来訪者、予想外の参戦者、予想外の出来事、神父は小さく口元に弧を描いて歪ませる。


「あぁ神父様、あぁ神よ、こんな罪深い私をどうかお許しください。」


女は笑う。
女の左手の甲に描かれている三つの印を神父に見せるように胸の前に翳しながら、女は笑った。






 後書き
言峰との対決的なのは書いたことがなかったなと思ったので。
さりげなく衛宮家長女夢主だったりします。
執筆時期 H23,11/01

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