短編2
□それはきっと夢だったのだろう
1ページ/1ページ
自分でも何で急に教会に何か行こうと思ったのか今でもわからない。
何をしたかったわけでもない、何を求めたわけでもない。
まるで虚ろな骸、からっぽな魂。
意識が完全に冷めないまま家を出て静寂な夜道を歩き、何故か自然に教会へと足を進めていた。
なんて、真っ黒な教会だろう。
灯が乏しい夜の下、この表現は当たり前であるとわかっているのにも関わらずその表現が何故かしっくりとした。
一歩、足を進め教会へと近づく。また一歩、教会へと近づく。
まるで、その闇に魅せられるかのように。
「悪い事は言わねえ、やめときな。」
「ぇ?」
急速に意識がはっきりと目覚めていく。
動いていたはずの足は意識に順じて止まり、身体は反射的に声の主を探すように辺りを見渡す。
「ぁ」
「こんな時間にいったい何のようだ、嬢ちゃん。」
青い髪、獣のような赤い瞳、圧倒的な存在感。見上げる木の枝に寄りかかり、人懐っこそうな笑顔を向ける青い男その容姿も姿も存在感も、私は本能的に彼は人間ではないのだと自分でも驚くほど冷静に解釈した。
「そこまで一瞬で理解できるのか。一般人の割には感がいいらしいな嬢ちゃん。」
「えっと、私は・・・なんでここに・・・?」
「って、何も考えずにここまできたのか嬢ちゃん。まったく・・・難儀なもんだ。」
頭をかきながら溜め息を吐く青い人。
自分の姿をよく確認すると、寝巻きに上着を被っただけという格好。
今までの自分は寝ぼけていたのか、どうして教会に・・・改めて目の前にそびえる教会を見上げると、一気に体温が下がるような気持ちの悪い感覚。
「こんな気持ちの悪い夜だ、感覚の鋭い奴は闇に飲まれやすい。」
「あの・・・」
「悪いことは言わねぇ、さっさと帰りな。」
空気の感覚でわかる、ピリッとした緊張感、危機感、警告。なんなのかはわからないけど、危ない、例えば命の危機、日常の危機。
それを、この青い人は遠まわしに私に教えようとしてくれているのかもしれない。
「・・・・わかりました、帰ります。」
「おぉ、そうしろそうしろ。そして、できりゃぁもう此処にはこない方がいいぜ。」
「わざわざありがとうございます、青いお兄さん。」
ここに長いしない方がいい、青い人にお礼を言うと駆け足で教会から逃げるように新都へと走り出す。
最後にもう一度だけお礼を言おうと思い後ろを振り返ると青い人の姿はもう何処にもいなかった。
・・・< それはきっと夢だったのだろう >・・・
「目撃者を逃がしたか、ランサー。」
「言峰・・・」
去っていく女を見送り、教会の影から言峰の姿を確認すると、舌打ちをし苦い顔をするランサー。
「ランサー、何故目撃者を逃がした。」
「別に意味はないさ、それにどうせ夢だと思ってくれるだろうよ」
「・・・・いいだろう、今回の事には目を瞑ろう。だが、次はないと思え。」
軽い返事と再び忌々しそうに舌打ちをうつランサーを見、去っていく言峰。
夜の風と闇の霧が更に濃くなっていった。
後書き
たまには一般人もいいかな、と。
ランサーとイチャイチャさせたかったのに、イチャイチャできなかった。
今回ランサー養分が足りなくて窒息しそうです。
執筆時期 H22,01/29
修正時期 H23,08/30